So-net無料ブログ作成

ケルトの妖精 №12 [文芸美術の森]

メロー 3

            妖精美術館館長  井村君江

 家に帰りついて、ひと息ついたものの、ジャックはあの龍のことが気になってしかたがなかった。龍に閉じこめられた魂が哀れだ、どうしたら自由にしてやれるだろうと、ひとり思案にくれていた。
 しかし、クー・マラは自分が悪いことをしているなどとは、これっぽちも思っていないので、その気持ちを傷つけるのもいやだった。
「どうしたものか」と考えているうちにアイディアがひとつ浮かんだ。
「そうだ。クー・マラを家に招待して、酔いつぶしてしまおう。そのすきに海へ潜っていって、閉じこめられている魂を解放してやろう」
 そう計画をたてると、さっそくジャックはあの岩のある場所へ出かけていった。合図の石を投げいれると、約束どおりクー・マラはすぐに浮かびあがってきた。
「やあジャック。わしに用かね」
「先日はごちそうになりました。お礼にこんどはわが家にお招きしたいと思うのですが」
「それはうれしいね。で、いつがいいんだい」
「今日の午後はいかがですか。そうすれば明るいうちに帰れるでしょうから」
 クー・マラは例の三角帽子を小脇に抱えて、すぐにやってきた。
 ジャックは二十人で飲んでも、たっぷりあまるほどの酒と料理を用意して待っていた。
 ところが、たっぶり飲んで食べて歌って、クー・マラが食卓の下に酔いつぶれてしまうのを期待していたのに、この日、先に酔いつぶれてしまったのはジャックのほうだった。ブランデーの酔いですっかり正体をなくしてしまったジャックを尻目に、クー・マラは千鳥足で、きげんよく帰っていってしまった。
 ジャックは翌日の朝まで目が覚めず、われに返ったときはなにやら心が沈んでいた。「あんな酒飲みにはふつうに立ち向かってもだめだ」と、一日じゅう考えあぐねた。そして「密造のポティーン洒なら、クー・マラほどの酒飲みでも、飲んだことはないに決まっている」と、強烈なポティーン酒で酔わせることを思いついた。
 ジャックはまた岩の上に行き、クー・マラを呼びだして、もういちど酒の挑戦を受けてくれるように言った。クー・マラは笑って、
「とてもおじいさんにかなうもんじゃないなしと言いながらも、よろこんで受けてくれた。
 ジャックはこんどは用心して、自分のブランデーは水で割って薄めておき、クー・マラにはまずいちばん強くて上等のブランデーを用意した。ポティーン酒はころあいを見計らって持ちだす心づもりだ。
 食事とブランデーが進むうち、
「これはとっておきの酒なんですがね。あなたと、わが家とは古くからのつきあいだから、ひとつふるまおうと思いましてね」
 と、強烈なポティーン酒をすすめた。クー・マラは、
「そうかい、どんなものか飲んでみよう」とポティーン酒を口にしてみた。
 気に入ったとみえ、二杯めからはぐびぐびとあおった。そして、
「ラム・ファム・プードウル・プー、リップル・ディップル・ニッティ・ドオブ……」と、
またいい気持ちで人魚語で歌うと、さすがのクー・マラも床に倒れてぐっすり寝入ってしまった。
 それを見たジャックは、三角帽子をひったくり、いつもの封まで走ると帽子を被って海に飛びこんだ。
 海の底は何もかも静まり返っていた。あたりには若いメローも、年をとったメローもひとりもいなかった。
(つづく)


『ケルト旺盛』 あんず堂

nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。