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日めくり汀女俳句 №38 [ことだま五七五]

四月三十日~五月二日

         俳句  中村汀女・文  中村一枝

四月三十日
山の名はただ向山(むこやま)や麦青む
              『半生』 麦青む=春
 「近頃の新婚旅行事情ってあるのかなあ」
 長い間旅行社に勤めている友人に聞いてみた。
 「今迄とは違った形態とか、変わった行き先ってないの?」
 「たまにはあるけど、今でも行く先はハワイ が一番、それもね最近は家族ぐるみで行って向うでお式や披露あげちゃうのが多いわ」
 今のカップルは新婚旅行ではじめて愛を誓うなんて殆どいない。既に愛を交し合い時にはお腹に忍ばせていたりする。いわば新婚旅行は愛情の仕上げであり、総点検でもある。
 だから、最後のチェックに引っかかって成田 離婚も又あるわけなのだ。

五月一日
メーデーに誰れ彼れ行きし麦の蝶
         『花影』 メーデ1=春 蝶=春
 いつの五月一日だったか、明治神宮外苑の近くをバスで通ったことがあった。人が舗道にはみ出しそうに楽しげに歩いていて、何かのお祭りかと思った。その中の何人かがプラカードを持っている。
「メーデーだよ。ほう、人が出てるな」。
 バスの乗客たちはひとごとのようにのどかにつぶやいていた。
 世の中にふんまんの種は累積しているのに皆が共存共栄というまやかしの輪の中で何となしに生きている。なあなあ、とか、ほどほど、そこそこ、その手の言葉のあいまいさの上に私たちの国はいつもある。

五月二日
矢車の止りいくつも止り居り
             『汀女句集』 矢車=夏
 家の前の狭い道は今、小学校低学年、幼稚園の子でにぎやかだ。三十年前はわが家もそうだった。当時の子供たちがみな、父親母親になっている。
 男の子みたいだった女の子がとてもいいお母さんになっていたり、気弱で温和しげを男の子がしっかり者の奥さんを貰っているのを見たりするのは楽しい。誰にも子供の日があったことを、大人にはもう一度思い出してもらいたい。
 今、一番ないもの、そこいら中ふんだんにあった自由な時間と空間、きらきらした夢を子供たちに返してあげたい。


『日めくり汀女俳句』 邑書林

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