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いつか空が晴れる №64 [雑木林の四季]

     いつか空が晴れる
          -夏の思い出~中田喜直~
                      澁澤京子

 今年の梅雨は寒い日が続いたせいか、父の肺に再び水が溜まって入院することになった。
うっとうしい雨が久しぶりに晴れ上がった暑い日、父に洗濯ものを届けに行って、ベッドに寝たまま鼻に管を通している父としばらくおしゃべりをしていた。
窓を背にして坐っている私からは、父のベッドの向こうにある洗面所の大きな鏡に映っている青い空と夏の雲が見えていた。

鏡に映っている、夏の雲。今まで、いろんな夏が過ぎていった。
ふと、~夏が来れば思い出す、静かな尾瀬、青い空~の歌が浮かんでくる。
子供のときは夏休みを、どんなに楽しみに待っていただろう?
夏の入道雲は子供の私にとって、まるで優しくて寛大な大好きなおじさんに再会するような、わくわくとうれしい気持ちにさせてくれたし、何よりも毎朝起きて学校に行かなくても済むのだ。

夏休みに入る前は、学校からいわれて毎日の予定という円形の時間割表を作ったのを覚えている。
7時・起床、8時・朝食、9時~10時・勉強、10時~10時半・犬の散歩・・・・
という具合に自分で細かく予定を立てていく。もちろん夏休みになると時間割表通りに生活することは一日もないのだけど、なぜか毎年、円形の時間割表というものを作って色を分けて塗ったりした。
時間割は守らなかったけど、その代り毎日の絵日記は、割と熱心につけていた。

あれは箱根の強羅ホテルだったと思う。私がつかまえてきたクワガタ虫を描くために、祖父が指でクワガタをつまんでいてくれたこと。
「可哀そうだから、早く描きなさい、」と言われて、絵日記に大きなクワガタムシの絵を描いた。
部屋の開いた窓の横の白い壁には、緑陰が映っていた。

~山の朝の空には
白い雲が小さく
流れて消える~

この歌も子供の時とても好きだった。ガールスカウトで習った歌だったと思う。調べてみたらクララ・シューマンが作曲した『山の朝』。
ガールスカウトの夏のキャンプでは、木の枝にマシュマロを刺して焚火で焼いて、ビスケットにはさんで食べたのがとてもおいしかったのを覚えている。
ガールスカウトの子供の面倒を見るリーダーのお姉さんたちは、綺麗な人が多くてみんな優しかった。特にYリーダーという、とてもおっとりして優しい、エキゾチックな顔立ちをした美人のリーダーがいた。当時、ガールスカウトは中学生になると、グレイの制服に紺色のベレー帽、えんじ色のスカーフとお洒落で、まだえんじ色のどんぐり帽とえんじ色の吊スカートの私は、リーダーたちの制服にとても憧れていた。
制服のグレイのスカートから、陽に焼けてスラッとした足に白い短いソックスを履いて、Yリーダーは、よく壁にもたれて静かに本を読んでいた。
今思うと、Yリーダーはいかにも深窓の令嬢という雰囲気のある、いわゆる「いいお嬢さん」で、そのせいか母親たちにもとても人気があった。
昔、私が子供の頃の年上の女の人には、深窓の令嬢や、エレガントで優しい感じの美人というものがまだ結構存在していたような気がする。

夏はとても短い。
陽射しの強い夏の青空にも、すでに秋の気配は潜んでいるのであって、敏感な子供は大人以上に夏にノスタルジーを持つ。

そして、子供が夏の雲や山や海に、大人よりもずっと強烈に親しみの感情を持つのは、まるで自分が生まれる遥か昔にも、雲や山や海とはもっと親しくてよく知っていたかのような、なにかそういった子供の時に起こる(よくわからない不思議な親しさ、懐かしさ)と関係しているような気がしてならない。

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