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じゃがいもころんだⅡ №13 [文芸美術の森]

 NHK素人のど自慢

                 エッセイスト  中村一枝

 今年は久し振りに梅雨らしい天気が続いている。しとしと降るでもなくあがるでもない、鬱陶しい空模様は久し振りに味わった。梅雨らしい梅雨だと思う。

 日曜日の昼にNHKでやっている素人のど自慢という番組は私が中学生の頃からあった。ある時、たまたまお昼に帰ってくると夫が一人でこの番組を見ていた。わたしの夫はあるテレビ局の報道に勤めていて家でテレビを見るなど全くしない人だった。それが思いがけず見ていたのがNHKの素人のど自慢である。もともと音痴と称して(これは確かなようだ)家で歌など歌ったことはない。さらに歌謡曲を低俗だと常々言っていたし、第一、家ではテレビは全く見ない人だと思っていた。それが思いがけず見ていたのが素人のど自慢とは、夫のおもいがけない一面をかいまみたようで嬉しかった。それからも彼はほとんどテレビを見なかった。
 実はわたしの方が素人のど自慢にはまってしまったのだ。夫がなくなってから、日曜の昼どきつい、この番組のチャンネルをひねってしまう。なんとみんな嬉しそうだろう。歌の上手い下手は問題ではない。あのステージに立つて声を出す、大勢のお客さんも、遠いところに住む人も、友達も知り合いもひっくるめて、その場に立つ人に同調できる。夫がなくなって何年も経つが、わたしは日曜日のお昼になると、ついNHKのチャンネルをおしてしまう。それに、出演しているお客さん達のなんとも嬉しそうな表情がいい。多分今日の夕食は家中この話で持ちきりになるだろうなと思うだけで楽しい。普通の人たちが全く普通の表情、そのままの日常がうかがい知れて、なんとなく打ち解けた気分になる。この番組が生まれて何十年経つか知らないが。テレビ局に勤めて何十年も経つ夫がなんとなくチャンネルを回して見入った気持ちが分かる気がするのだ。
 今やテレビは日常にかけがえのないものになってきている。テレビができた時、こんなくだらないものと思ったか、それともこの先楽しみと思ったか。わたしは、はじめてのテレビドラマを見てあまりにちゃちっぽいのに驚いた。暫くはドラマは見なかった。電気紙芝居と誰かが言った。正にその通りだった。でも今テレビがいきなりなくなったら、一番こたえるのは老人に違いない。足の具合の悪い人も多い。どこにも出かけられない人にはテレビは救世主に違いないと思う。スイッチをえ押しさえすれば好きな世界へ連れて行ってくれる。それだけにテレビを作る人の責任は重い。
 今日も日曜日の素人のど自慢を見た。出演している人のなんとも嬉しそうな顔、それだけでこの番組の価値はある。だが、一年前NHKにはかなり批判的だったわたしは、素人のど自慢は良いが他はどうなのかと言われると未だに謎で、両手を上げて応援しているわけではない。確かにNHKの作るものは質もいいし内容もある。それでも官製というよろいの影がちらついているのはなぜか。テレビの製作には莫大な費用がかかる。その点NHKはめぐまれているだけにもっともっといいものを作れるはずだ。のど自慢などは多分そんなにお金はかからないなかで庶民の思いをほんわかうけとめているのはたしかである。


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