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日めくり汀女俳句 №37 [ことだま五七五]

四月十五日~四月十七日

          俳句  中村汀女・文  中村一枝

母に次ぎ好きな婢(ひ)と居(い)て鳴く蛙
             『汀女句集』 蛙=春
 汀女の子供の境の思い出はいつも水辺につながる記憶だが、いわゆる水害については一言も書かれていない。彼女が江津に住んでいる間は記憶に残る水害はなかったのだろうか。
 私が疎開していた伊東の家もすぐ傍らを川が流れていた。疎開した次の年だったか、大雨が降った。一段高い所にある家の周りはぐるりと水田で前の日まで青々としていた稲がみな水の下にある。一夜明けて外に出た私が見たのは見渡す限りの水、ちょうど国語で習
っていた、秀吉の高松城の水攻めはこれかと思った。

四月十六日
行春(ゆくはる)や波止場革なる黄たんばぽ
      『汀女句集』 行春=春 蒲公英=春
 子供の時、新しい教科書を貰うのは嬉しかった。とりわけ国語は貰った日に最後迄読んでしまった。私のように活字には恵まれている家の子供でもそうだったのだから、一般に本が手に入りにくい家の本好きの子にはなお更の事だったに違いない。
 今でいえば軍国主義一色に彩られている教科書で国側からすれば愛国心の強い克己心に富む子を育てたかったのだろう。弟橘嬢(おとたちばなひめ)が身を投げ海神を沈めたり、山中鹿之助が、我に七難八苦を与え給えと祈ったり、那須与一(なすのよいち)が扇の的を射ると敵味方喝采したり、英雄譚にはロマンがあった。

四月十七日
奥庭を老桜(ろうおう)一樹(いちじゅ)空占(し)むる
             『寧微粧ふ』 桜=春
 東京の桜は熊本より一週間程遅れた。気温のせいか華やかな景になかなかならなかった。年輪と趣を感じさせる太い幹、ほのかな甘さを帯びた花びら、見る度に心引かれる。
犬と歩きながらわが周辺桜五景をあれこれ楽しんだ。花びらがゴミになる。葉の掃除が大変だと言われ、邸内の桜を伐(き)った家もある。あんた今年も生き残ったんだね、とつぶやいてしまう。
 人生別離足る、という漢詩。井伏鱒二の名訳で知られる。
  ハナニアラシノタトへモアルゾ
 「サヨナラ」ダケガ人生ダ。


『日めくり汀女俳句』 邑書林

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