ケルトの妖精 №6 [文芸美術の森]
湖の貴婦人ニミュエ モルガン・ル・フェ 2
妖精美術館館長 井村君江
瀕死のアーサー王のもとには、騎士ベディヴイアだけがつき添っていた。
アーサー王はベディヴイアに言った。
「ベディヴイアよ、このエクスキャリバーをもって湖まで急いでくれ。それから剣を湖に投げこみ、そこで何が起きるかを見てきてほしいのだ」
ベディヴイアはエクスキャリバーを手に湖へ向かった。しかし岸辺に立ったとき、ベデイヴイアはこの剣が輝きを失わず、ち領収書ばめられた宝石が月の光に輝くのを見て、湖に投げいれるのが惜しくなった。そこでエクスキャリバーを木の陰に隠すと、王のところに戻ってきた。
王は「何を見たか」と聞いた。
「波と風のほかには何も」ベディヴイアは答えた。
「わたしをだましてはいけない。おまえほどの騎士がわたしを欺くとは」と王は嘆いて、ふたたび湖まで行くように命じた。
ベディヴィアはなんどもエクスキャリバーを投げこむことをためらったが、ようやく、湖の岸辺遠く投げこんだ。
すると白い妖精の腕が水のなかから現れ、剣をつかんで水底に沈んでいったのだった。
ついに死を迎えたアーサー王は、この世にはない妖精の島、アヴァロンの島へ、三人の妖精に迎えられて船出していった。この三人の妖精はモルガン・ル・フエとノースガリスの王妃、ウエスト・ランドの王妃と呼ばれる妖精たちであった。船のなかにはアーサー王を守護しつづけてきた湖の貴婦人、ニミュエもいたという。
アーサー王はベディヴイアに言った。
「ベディヴイアよ、このエクスキャリバーをもって湖まで急いでくれ。それから剣を湖に投げこみ、そこで何が起きるかを見てきてほしいのだ」
ベディヴイアはエクスキャリバーを手に湖へ向かった。しかし岸辺に立ったとき、ベデイヴイアはこの剣が輝きを失わず、ち領収書ばめられた宝石が月の光に輝くのを見て、湖に投げいれるのが惜しくなった。そこでエクスキャリバーを木の陰に隠すと、王のところに戻ってきた。
王は「何を見たか」と聞いた。
「波と風のほかには何も」ベディヴイアは答えた。
「わたしをだましてはいけない。おまえほどの騎士がわたしを欺くとは」と王は嘆いて、ふたたび湖まで行くように命じた。
ベディヴィアはなんどもエクスキャリバーを投げこむことをためらったが、ようやく、湖の岸辺遠く投げこんだ。
すると白い妖精の腕が水のなかから現れ、剣をつかんで水底に沈んでいったのだった。
ついに死を迎えたアーサー王は、この世にはない妖精の島、アヴァロンの島へ、三人の妖精に迎えられて船出していった。この三人の妖精はモルガン・ル・フエとノースガリスの王妃、ウエスト・ランドの王妃と呼ばれる妖精たちであった。船のなかにはアーサー王を守護しつづけてきた湖の貴婦人、ニミュエもいたという。
ところで、アーサー王の死の戦場にマーリンの姿がなかったのは、ニミュエを愛しニミュエによって魔法を奪われて、生きながら永遠の囚われ人となっていたからだった。それは、アーサー王の婚礼の日にはじまったことだった。
騎士たちが大広間の円卓についていた。そこへ白い牡鹿がとつぜん駆けこんでくると、そのあとから短い緑の上衣を着て弓矢を持ち、猟の角笛を首にかけ、白馬に乗った女か現れた。ニミュエであった。
このときニミュエを愛してしまったマーリンは、ニミュエを魔法の力で欺いて、愛をわがものとした。
しかし、やがてこミュエは年老いたマーリンから解放されたいと思うようになった。そこでマーリンの愛を利用して、ニミュエは、マーリンの魔法の術を自分のものとする企てをめぐらした。
あるとき、ニミュエはマーリンに言った。
「永遠にとくことのできない、あなたの魔法を使ってきれいな家をつくりましょう。その家でふたりで暮らしたら、どんなにか楽しいことでしょうね」
これを聞いたマーリンは、「ではそのとおりにしよう」と答えた。
そこでこミュエは、「でも、あなたにつくっていただくのではなくて、わたしが好きなようにつくりたいのです。どうするのか、わたしに教えてくださいな」と言った。
こうして、ニミュエはマーリンの術を知ってしまった。
それからしばらくして、プレセリアンドの森をふたりで歩いているときだった。美しく咲きはこったバラの茂みを見つけ、その木陰に座って、マーリンはニミュエの膝に頭を乗せて眠ってしまった。
それを見てニミュエはそっと立ちあがると、マーリンに教えられたとおり、バラの茂みとマーリンの体に九度ずつ輪をつくって魔法をかけた。
眠りから覚めたマーリンは、堅固な牢のなかに閉じこめられ、目に見えない寝床に横たわっているような気がした。それは空中の霧のなかか、地下の洞窟のなかか、知ることもできない牢獄だった。
「おまえはわたしをだましたね。でも、いつまでもそばにいておくれ、この魔汰をとくことができるのは、おまえだけなのだから」
とマーリンは言った。
それから、マーリンの姿を見たものは、だれもいなかったのだ。
騎士たちが大広間の円卓についていた。そこへ白い牡鹿がとつぜん駆けこんでくると、そのあとから短い緑の上衣を着て弓矢を持ち、猟の角笛を首にかけ、白馬に乗った女か現れた。ニミュエであった。
このときニミュエを愛してしまったマーリンは、ニミュエを魔法の力で欺いて、愛をわがものとした。
しかし、やがてこミュエは年老いたマーリンから解放されたいと思うようになった。そこでマーリンの愛を利用して、ニミュエは、マーリンの魔法の術を自分のものとする企てをめぐらした。
あるとき、ニミュエはマーリンに言った。
「永遠にとくことのできない、あなたの魔法を使ってきれいな家をつくりましょう。その家でふたりで暮らしたら、どんなにか楽しいことでしょうね」
これを聞いたマーリンは、「ではそのとおりにしよう」と答えた。
そこでこミュエは、「でも、あなたにつくっていただくのではなくて、わたしが好きなようにつくりたいのです。どうするのか、わたしに教えてくださいな」と言った。
こうして、ニミュエはマーリンの術を知ってしまった。
それからしばらくして、プレセリアンドの森をふたりで歩いているときだった。美しく咲きはこったバラの茂みを見つけ、その木陰に座って、マーリンはニミュエの膝に頭を乗せて眠ってしまった。
それを見てニミュエはそっと立ちあがると、マーリンに教えられたとおり、バラの茂みとマーリンの体に九度ずつ輪をつくって魔法をかけた。
眠りから覚めたマーリンは、堅固な牢のなかに閉じこめられ、目に見えない寝床に横たわっているような気がした。それは空中の霧のなかか、地下の洞窟のなかか、知ることもできない牢獄だった。
「おまえはわたしをだましたね。でも、いつまでもそばにいておくれ、この魔汰をとくことができるのは、おまえだけなのだから」
とマーリンは言った。
それから、マーリンの姿を見たものは、だれもいなかったのだ。
◆中世の英雄ロマンス『アーサー王物語』には、ケルトの妖精たちが色濃くかかわっている。アーサー王がケルトの血をひく英雄であり、ケルトの妖精が人間と一緒に生きていた時代の物語であるからだ。妖精ニミュエも妖精モルガン・ル・フェも湖の貴婦人(ダーム・デュ・ラック)と呼ばれ、あるときは保護者として、あるときは恋人として、またあるときは敵対者として湖の底から登場してきて、『アーサー王物語』の主役たちの運命を左右する。
アーサー王は湖の貴婦人ニミュエから運命的な力をもつ剣、エクスキャリバーをもらった。また、のちにアーサー王の円卓の騎士となるラーンスロットは、父王が戦いに破れて死んだとき戦場から湖の貴婦人に連れ去られ、その宮殿で育てられた。この湖の貴婦人もニミュエだった。ニミュエは、館のまわりに湖をつくりだし、人々を遠ざけた。ラーンスロットはそこで騎士としての教育を受けたのち、円卓の騎士になった。このため「湖の騎士」と呼ばれた。
ニミュエはアーサー王に対してと同様、騎士ラーンスロットへも温かい守護者として登場している。
アーサー王の死のとき、アヴァロンの島へ迎えいれる湖の貴婦人のひとり、モルガン・ル・フェがアーサーを苦しめてきた妖精であるのは不思議におもえるが、これはケルト神話のモリグーが英雄ク・ホリンに言い寄り、それがかなわないと変身して危難に陥らせようとし、しかし最後はカンムリ烏の姿でク・ホリンの死をやさしく見守るというのに似ていて、妖精の多重性格を物語っている。
湖の貴婦人は、ケルト神話のメイドランドの女王で戦いの女神であるヴァハや、英雄ク・ホリンに武芸をしこみ魔の槍ゲーボルグを与える影の国の女戦士スカサバにも類似している。ケルト系の妖精フェであり、妖精の保護者、妖精の母親であり、妖精の愛人でもある。
湖の貴婦人が美しく魔術にもたけ、しかも騎士を守り育てるのは、自分の恋人にして異界の楽園に連れ去るためであるともいえる。
マロリーの『アーサ主物語』に登場するニミュエには、月の女神ダイアナ(女狩人)、処女の守り神、子どもの保護者と泉の支配者、ケルトの女神ニアヴ(常若の国の王女、妖精の国の女王)、聖女ニニアン、泉の乙女、女魔法使い、性的な誘惑者といったさまざまな映像が重ねられている。
アーサー王は湖の貴婦人ニミュエから運命的な力をもつ剣、エクスキャリバーをもらった。また、のちにアーサー王の円卓の騎士となるラーンスロットは、父王が戦いに破れて死んだとき戦場から湖の貴婦人に連れ去られ、その宮殿で育てられた。この湖の貴婦人もニミュエだった。ニミュエは、館のまわりに湖をつくりだし、人々を遠ざけた。ラーンスロットはそこで騎士としての教育を受けたのち、円卓の騎士になった。このため「湖の騎士」と呼ばれた。
ニミュエはアーサー王に対してと同様、騎士ラーンスロットへも温かい守護者として登場している。
アーサー王の死のとき、アヴァロンの島へ迎えいれる湖の貴婦人のひとり、モルガン・ル・フェがアーサーを苦しめてきた妖精であるのは不思議におもえるが、これはケルト神話のモリグーが英雄ク・ホリンに言い寄り、それがかなわないと変身して危難に陥らせようとし、しかし最後はカンムリ烏の姿でク・ホリンの死をやさしく見守るというのに似ていて、妖精の多重性格を物語っている。
湖の貴婦人は、ケルト神話のメイドランドの女王で戦いの女神であるヴァハや、英雄ク・ホリンに武芸をしこみ魔の槍ゲーボルグを与える影の国の女戦士スカサバにも類似している。ケルト系の妖精フェであり、妖精の保護者、妖精の母親であり、妖精の愛人でもある。
湖の貴婦人が美しく魔術にもたけ、しかも騎士を守り育てるのは、自分の恋人にして異界の楽園に連れ去るためであるともいえる。
マロリーの『アーサ主物語』に登場するニミュエには、月の女神ダイアナ(女狩人)、処女の守り神、子どもの保護者と泉の支配者、ケルトの女神ニアヴ(常若の国の王女、妖精の国の女王)、聖女ニニアン、泉の乙女、女魔法使い、性的な誘惑者といったさまざまな映像が重ねられている。
『ケルトの妖精』 あんず堂
2019-06-27 18:06
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