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ケルトの妖精 №5 [文芸美術の森]

湖の貴婦人ニミュエ モルガン・ル・フエ 1

            妖精美術館館長  井村君江

 アーサー王がまだ若かったときのことである。王ははげしい戦いで傷を受け、剣を失って森のなかをさまよっていた。
 王のかたわらに影のように従っていた魔法使いのマーリンに、王がそのことを告げると、マーリンは予言した。「心配なさいますな。この近くに魔法の力をもった剣がございます。それはあなたさまのものになる剣なのです」
 ふたりは、馬を進めていくと、しばらくして広く美しい湖に出た。
 湖のおもてを見やると、沖あいに水の輪を静かに描いて、美しい綿の衣をまとった乙女の手が現れた。そして輝くような白い手にはひと振りの剣がささげ持たれていた。
 「あれは湖の貴婦人(ダーム・アユ・ラック)と呼ばれる妖精です。湖の底にはこの地上では見られぬ、豪華な調度がととのった美しい宮殿があるのです」とマーリンが言った。
 そして「さあ、あの剣はあなたさまのものです」とうながした。
 アーサー王はマーリンとともに湖に小船を漕ぎだし、湖の貴婦人と呼ばれる妖精のひとり、ニミュエの持つ剣を手にした。すると剣をささげていた白い美しい手は、音もなく水のなかに消えていった。
 この剣こそが、アーサー王の運命と切り離すことのできない名剣エクスキャリバーであったのだ。光り輝く刃は堅いはがねも断ち切ることができ、刀身を納める鞠には受けた傷を治す力があった。そのためエクスキャリバーを身に帯びたものは不死身となった。
 このときからエクスキャリバーは、たくさんのはげしい戦いのなかで、アーサー王を守っていくことになる。

 湖の貴婦人のひとり、モルガン・ル・フェはずっとアーサー王に敵意を燃やしていた。あるときは策略をもちいてエクスキャリバーをだまし取ったり、鞠を盗んだこともあった。またあるときはこれを身につければ身体が燃えあがり灰になってしまうという魔法のマントを贈って、アーサー王の命を奪おうとした。すきがあれば王位算奪と王の殺害を企てていたのだったが、それは愛人のアコーロンを王にして、自分が妃となりたいがためであった。
 ある日、狩りに出たアーサー王は一頭の鹿を追いかけていて、一行とはぐれてしまった。
 騎士ウリエンス王と騎士アコーロンだけが王と一緒だった。しばらく行くと、川辺に出た。
 そこには猟犬に噛み殺された鹿が横たわっていた。アーサー王は合図の笛を吹いたが供のものはだれも現れなかった。代わりに川のなかほどから綿の布で飾られた小舟が漂ってきた。
 三人がこの船に乗りこむと、いっせいに松明が灯り、十二人の乙女が現れて食卓にみちびいた。華やかなもてなしを受けてから三人はそれぞれ豪華な部屋に案内され、眠りについてしまった。
 アーサー王はモルガン・ル・フエの魔法に落ちてしまったのだった。
 眠るアーサー王にモルガン・ル・フエは魔法で邪悪な幻影をつくりだして見せ、王と騎士アコーロンの一騎討ちをしくんだ。名剣エクスキャリバーは、アーサー王のもとからモルガン・ル・フエの姦計によって奪われ、騎士アコーロンの手に渡っていた。
 アーサー王はそれを知ることもなく、戦いははじまってしまった。たがいに剣を抜き放ち、はげしく刃を交えた。しかし王の剣はいつもとちがって切れ味に鋭さをみせなかった。どんなにはげしく打ちおろしてもアコーロンの鎧に食いこまず、アコーロンの振りあげる剣は打ちおろすたびに王の傷を広げた。
 アーサー王は猛り狂ってアコーロンの兜に剣を打ちおろすと、王の持つ剣は根元から折れて血まみれの草の上に落ちた。
 「降伏せよ」とアコーロンは叫んだ。
 「武器はなくしても誇りはなくさない。もしそなたが武器を持たない相手を殺すなら、それはそなたの恥辱となろう」とアーサー王は言いかえした。
 「恥辱なぞ、かまうものか」
 アコーロンがなおもすさまじい一撃を加えようと、手にしているエクスキャリバーを振りおろした剃那、エクスキャリバーはアコーロンの手を離れ、宙を飛んで草の上に転がった。
 モルガン・ル・フェの陰謀を知ったニミュ工が駆けつけ、アーサー王を救ったのだった。王はすかさずエクスキャリバーを拾いあげ、兜もろともアコーロンに斬りつけた。そして不死身の力をもつエクスキャリバーの稗をアコーロンの腰から奪い取った。アコーロンの頭から血が流れだし顔をみるみる赤く染めた。
 モルガン・ル・フェはこのあと、なおもアーサー王の命を狙って策略をめぐらせるが、湖の貴婦人ニミュエがいつもその危難を救うのだった。(つづく)


『ケルトの妖精』あんず堂

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