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私の中の一期一会 №192 [雑木林の四季]

              スポーツ競技に於ける“ビデオ判定”の問題点を考える
          ~栃ノ心・朝乃山の一番は”相撲史に残る誤診”かも知れない~

        アナウンサー&キャスター  藤田和弘

 日本ハムのドラフト1位ルーキー、吉田輝星投手(18)が交流戦の広島戦でプロ初登板を勝利で飾って喝采を浴びた。
 強力打線で知られるセ・リーグ3連覇の広島カープを相手に,5回を4安打、4三振、2四球、投球数113という立派なもの。リリーフ4人もキッチリ無失点リレーで締めて初登板のルーキーの勝ち星を消さなかった。
 最速は147キロだったらしいが、初回いきなり安打と2四球で迎えた1死満塁の大ピンチに、好打者西川に3球連続の直球勝負を挑んだ。そして見事、空振りの3振に仕留めたのである。
「自分の真っ直ぐは、ある程度通用したのかなと思う。ファームでも5回を投げ切ったことがなかったので、どうせなら本番でやりたいと思っていた。勝利投手よりそっちの気持ちの方が強かった」と笑ったという。
 度胸満点のルーキーは、“21世紀生まれ初の勝利投手”だと新聞に書かれた。
 「勝つことより“5回以上を投げ切るぞ”というメンタルを備えてこそプロなのだ」と吉田輝星は考えているのではないだろうか。
 並みの新人ではない。怪我さえなければ、間違いなく大器としての将来が待っている筈だ。
 ダルビッシュ、大谷翔平、清宮幸太郎,そして吉田輝星・・頼もしい新戦力が、またも日本ハムから生まれようとしている。
 北海道日本ハムファイターズの選手育成手腕は、日本球界ではずば抜けているように思えてならない。
 スポーツ総合誌Numberが、6日に福岡のヤフオクドームで行われたプロ野球・ソフトバンク対中日の試合で起こった“リクエストをめぐる誤審騒動”をビデオ検証の問題点として取り上げて書いている。
 問題のプレーは4-4の同点で迎えた8回表、中日の攻撃中に起こった。
 打者大島がライトポール際のフェンスを直撃する長打を放った。打球は跳ね返って転々と転がった。  
 大島は3塁を蹴ってホームにヘッドスライディングしてのクロスプレーとなった。
 アウトかセーフか、微妙だったのは確かだった。
 土山球審は「アウト」の宣告だったが、与田監督が直ちに「リクエスト」を要求したのである。
 審判団がビデオを検証している間に、4方向からの映像が場内に流されたが、どれもホントに“微妙”だった。
 大島にタッチにいったキャッチャー高谷のミットは空を切ったように見える。
 大島の手が相手捕手のタッチより先にホームプレートに触れているようにも見えた。
「セーフ」ならランニングホームランだが、「アウト」のままならホームランも“まぼろし”になってしまう。
 検証の結果は、判定どおり「アウト」であった。
 この判定に中日ベンチは、一斉に不服のジェスチャーを示したという。だが、ビデオ検証に対する抗議はルール上認められていない。
 同点で試合は再開されたが、その裏ソフトバンクの攻撃でも本塁上でのクロスプレーがあり、この時も「アウト」の判定があった。そして今度は工藤監督がリクエストを要求した。
 この時のビデオ検証では、「アウト」から「セーフ」に判定が覆っている。
 「リクエスト」成功のソフトバンクは、2点を取って試合に勝利し、「リクエスト」失敗の中日は4-6で敗戦という皮肉な結果になった。
  審判団は試合後、「判定変更に値する確証を得られる映像はなかった」という回りくどい説明で記者団に見解を示した。 
  Nunberの記事によると、試合が終わったあと与田監督がビデオを確認して「一番気になったのは、タッチの時、キャッチャーのミットの中にボールがなかったのではないか」と述べて、アウトという判定は誤審ではないかと疑問視している。
 中日側の主張は、「キャッチャー高谷はボールを持った右手をミットに添えてタッチにいっていた。タッチの瞬間には上体が伸びて右手とミットは離れているように見える」という主張だ。
ボールは右手にあって、タッチしたミットの中に“ボールがない”としたら、タッチされていないことになるのでは・・という訳だ。
 リクエストの結果に対する抗議は認められていないのは承知の上で、納得できない中日側は“意見書の提出”をセ・リーグ統括に投げかけようとしたのである。
 結局、意見書の提出は「不可」とされたが、後味の悪さは残ったままになった。
 この問題は後を引くかも知れない。
 大相撲夏場所13日目、10勝すれば大関復帰となる栃の心・朝乃山の一番は、物言いがつく際どい相撲になった。
 復帰まであと1勝がかかる栃の心が土俵際で、すくい投げからの突き落としで朝乃山を横転させた。
 行事軍配は栃の心に上ったが、土俵下の放駒親方(元玉乃島)が手をあげたのだ。
 検査役5人の意見は割れ、何度もビデオ室と連絡を取り、約6分に及ぶ異例の審議となった。
 阿武松審判長が「栃の心のかかとが出ており・・・」と差し違えをアナウンスすると、館内では大ブーイングが起こり騒然となった。
 ビデオを参考にしながら「目の前の審判が正しい。放駒親方の目を重視した」という審判長の説明は説得力に欠けるものだった。テレビを見ていた私にも“納得し難い結論”に思えた。
 繰り返し流されたビデオの映像では、栃ノ心の右かかとは確かに土俵から少し出ているが明らかに浮いていたと思う。
 審判長の「ビデオでは蛇の目とかかとの隙間が見えない・・」という説明は違和感を覚えた。
 最も近くで見ていた放駒親方の「かかとが砂を連れてきた」という表現もどういうことかよく分からない。
 栃の心は支度部屋で報道陣に「見てたでしょ?勝ったと思った」と人目もはばからず悔し涙を流したという。
 “不当な誤審”と感じた人が多かったと思われる。取組み後、相撲協会には“不可解な判定”に抗議する電話が殺到したという。
 スポーツ競技で、審判員の肉眼での判定が難しいときや判定に異議があるときに、録画されたビデオ映像を活用して判定を検証するのが「ビデオ判定」である。
 野球、サッカー、アメリカンフットボール、テニス、卓球などの球技ばかりでなく、柔道、相撲、ボクシングなどの格闘技などでも、“審判の誤審”が生じることはしばしばることだ。
 “不当な判定”もまた誤審であり、ホームタウンデシジョン、政治的圧力も誤審ということになる。
 最近は誤審が起きないよう様々な対策が競技ごとにとられるようになってきている。
 ビデオ判定は、公平性という観点からみても有効な対策といえるのではないだろうか。
 ただし、審判の独立性が保たれないと、誤審は生じる。
 日本のプロ野球では、大リーグの「チャレンジ制度」に倣って、昨年から「リクエスト制度」が導入された。
 クロスプレーをビデオで検証する“リクエスト制度”がそれである。
「リクエスト制度」の一番の問題点は、ジャッジした審判員が「自分達で自分達の誤りを検証する」ことにある。そこには第三者の目がないことが大きな問題なのだ。
 メジャーリーグでは2014年から「チャレンジ制度」が導入されている。
 監督の要求でビデオ検証が行われるのだが、アンパイヤ―はベンチ横でインターカムをつけて、ニューヨークの専用スタジオからの判定を待つだけで、ビデオ検証には加わらないのだ。
 専用スタジオでは全球場の映像が一括管理されていて、そこに待機する8人の分析担当審判員がビデオを判定する。当該審判がビデオ検証に加わらないことは公平性を保つ上で重要だからだ。
 メジャーのほうが日本より、制度としては優れていると言わざるを得ない。
 中日球団は、意見書を出せなかったが、日本のプロ野球における“ビデオ判定の問題点”を提起したと言えるのではないだろうか。
 大相撲だって親方衆以外の専門検査役を置いて、ビデオ判定専門職を要請すれば、ファンのブーイングや相撲協会への抗議電話も減る筈である。
 18年シーズンのリクエスト総回数はセ・リーグが251回、パ。リーグは243回、合わせて494回。
 そのうちビデオ検証で、ファーストジャッジが覆ったのは162回だった。
 リクエスト成功率は32.8%だった。これは誤審を防げた割合である。
 メジャーでは、17年シーズンに1172回のレンジがあり、成功率50,2%だったという。
 いずれにしてもビデオ検証するのは人なのである。
 不信感を募らせないためには、“第三者の客観的な目が大事だ”ということだけは間違いない。


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