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検証 公団居住60年 №34 [雑木林の四季]

Ⅶ 公団家賃裁判―提訴から和解解決まで

      国立市富士見台団地日会長  多和田栄治

7.原告陳述から
 東京地裁では、1982年1月18日の第12回法廷までに原告側は16名が陳述をおこない、9回にわたって準備書面を提出した。この間、被告公団側の陳述はなく、8回の準備書面のなかで、公団家賃といえども民間家賃と同じであり、値上げの法的根拠は借家法にある、したがって値上げ理由は経済事情の変動であるとの主張に終始した。この立場は立証にもあらわれ、公団諸法令を無視した民間家賃の算出手法による不動産鑑定評価書を提出したにすぎない。
 わたしは81年9月7日の第10回口頭弁論において、賃貸借契約書5条と建設大臣承認について被告の説明を求める陳述をおこなった。ここでは81年6月8日の第9回法廷での戸石八千代原告の陳述全文を紹介しておく。

 私は原告の戸石八千代です。
 私は昭和34(1959)年5月30日に現在の住居ひばりが丘82-105の3Kに入居いたしました。もう22年前になります。当時家族は夫婦と子ども4人の6人家族でしたから、畳の部屋が3部屋あるというので、3Kに申し込みました。そのときの主人の給料は34年4月24,480円で、ひばりが丘団地3Kの家賃は6,550円とあまりにも高すぎ、給料から家賃を差し引くと、家族の生活に支障をきたしました。そのため主人はアルバイトをして
家賃をどうにか支払うことにして入居しました。
 3部屋あるということで希望に胸ふくらませて入居いたしましたが、「団地サイズ」でそれぞれの部屋がいかにも狭く、お台所は食器棚をうしろに置くと、流し台の前に私のような小柄なものがやっと立てるスペースしかなく、肥った人は蟹の横ばいでなければ通れないのです。
 つぎに洗濯機を置こうと思ったら置き場がなく、仕方なくベランダに置けば、雨にぬれて損傷が早く、カバーをかけてもモーターのいたみが早くすぐだめになってしまうのです。玄関には下駄箱がなく、ベランダにあるべき物入れが玄関わきにあるので、物入れの整理中に来客があると大慌て、たいへん不便です。
 下駄箱のかわりなのでしょうか台所の壁の下のほうに戸棚のようなものがあって、これがまた場所的にとても使いづらいのです。こんなありさまで、どれ一つとってみても住む人の身になって造られているとは思えません。一事が万事で、玄関わきにお風呂場があり、もちろん更衣室もありませんので、お風呂に入っているとき玄関に人が来ますと、その人が帰るまで風呂場から出られないで困ったこともしばしばあります。
 壁の結露にしても長いあいだ悩まされています。押入れにいれた本がぬれて駄目になったり、お布団がかびたりは、つい最近までつづいています。
 ただ、当時主人が九段会館で入居説明を聞いてきたその日からずっと言いつづけてきたことは、「なんといっても個別原価方式で土地代まですべて含まれているので、いまは高家賃でたいへんだが、住んでいるかぎり家賃が上がることがないのだから、今に楽になるよ」との言葉でした。私もずっとそれを信じてまいりました。
 ところがその家賃が「不均衡是正」の名のもとに、こんなにも古くなってから7千円も上げられてしまうのです0黙っているわけにはいきません。
 20年以上もたって、どんなに大切に住んでも、あちこち破損していく現在、ガスもれがあったり、排水管がくさって水があふれたり、住まいについて不安なことがいっぱいあります。外壁の亀裂、いくらいっても20年間一度も塗装もしていない、汚れほうだいの建物が今後の地震に耐えられるのだろうかと心配です。
 そのうえ建物の内部の修繕は個人負担といわれ、20年間に畳替え、ふすまの張り替え、壁の塗り替え等みんな私たちが個人でやってきたのです。
 入居当時2,700戸の建物と小学校が一つあるだけでしたが、住みよい環境にしたいと自治会をつくり、みんなで力を合わせて保育園をつくり、児童館を建て、幼児教室を育て、図書館をつくり一生懸命努力してきたいま、一方的に家賃値上げ通告をしてきて、いやなら出て行けといわんばかりの態度は納得いきません。
 ひばりが丘団地は20年以上たちますので、老人世帯も必然的に増えてきました。私の家庭も最近主人が亡くなり、現在長男と二人暮らしですがやがて長男が結婚して別所帯になったときに、いまのような公団の一方的な家賃値上げがくりかえし行われると、歳をとり一人暮らしで収入も少なくなったときに追い出されるのではないかといちばん心配しています。このことは多くの老人世帯が同じぐ悩み心配しています。
 またここから狭いため去った子どもたちにとって、ここは懐かしい故郷なのです。成長期をここで育った子どもたちが故郷を求めて帰ってくる日のために、老朽化がすすみスラム化しつつある団地の修繕や補強にも力を注いでいただきたいと思います。
 昔から衣、食、住は人間が生活するうえで大切なものとされています。その「住」生活がいまおびやかされています。
 以上申しあげました理由によりまして、もう一度声を大にしてこの一方的値上げにたいして、私は納得のいくまで断固反対していくことを述べて私の陳述を終わります。


『検証 公団居住60年』 東信堂

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