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余は如何にして基督信徒となりし乎 №66 [心の小径]

第十章 基督教国の偽りなき印象―帰郷7

                内村鑑三

 つぎに彼らの国民的良心は ― これによって余は一国民としての人民の良心の総和を意味するのであるが ― 彼らの平均的良心よりいかに無限に高くまた純粋であることよ! 個人としては彼らが自由きままに耽溺(たんでき)していることを、一国民としての彼らは強く反対するのである。幾多の無神論者が米国のさきごろの南北戦争の戦場で基督信徒の死を遂げたという話を開いた、そして余はその話を疑わない。その戦いは主義のそれであって、名誉と卑しい利益とのそれではなかった。彼らは基督教的目的を目途(もくと)として進軍した、劣等民族の解放がこれである。歴史上かつて一国民がかような愛他的目的を目途として戦争に入ったことはなかった。基督教国民以外のなんぴともそのような戦争におももむくことはできない。しかもこの戦争におもむいたものがすべて基督信徒ではなかったのである。― またこれらの人々が自分たちの大統領として選ぶ人々の道徳的完全についていかに慎重であるかをも観察せよ。その人々はただに有能な人であるのみならず、また遺徒的な人でもなければならない。一人としてリシュリューやマザランのような人は彼らの大統領たることはできない。禍(わざわい)なるかな、あの憐れな候補者は、彼は他の点においては統治の最適任者である、しかし彼の人格を傷つける一二の汚点が彼を失敗者としたのである。道徳性は普通に異教国では政治家たる資格の数に入らないのである。― 何故彼らはモルモン教徒をそれほどきびしく追究するのであるか。『秘密教の類(たぐ)い』の蓄妾(ちくしょう)と多妻は実際にはこれらの人々の間に実行されているではないか。おかしな矛盾、と諸君は言われる。おかしい、しかし賞讃さるべき
矛盾である。国民としては彼らは多妻を許すことはできない。それを実行する人々をして秘密に行わしめよ。国民的良心は未だこの種の秘密を追求するほどには鋭くはない。しかし国家の法律の黙許と保護の下にある一つの制度としての多妻主義、それは基督信徒も無神論者も見て見ぬふりはしないであろう。モルモン教徒は服従しなければならない、さもなければユタ州には、すでにかくも多くの輝かしい名誉ある星をちりばめた旗に、もう一つの星を加えさせないであろう。
 あらゆる高潔にして価値ある感情を育てるその同じ国民的良心は、下劣にして価値のないあらゆるものを寄せつけない。白昼の日光はあらゆる種類の魔女どもにはこばまれているのである。そういうものたちは、人々の間に現れる時には、義の衣をまとわなければならぬ、さもなければ彼ら自分たちのような魔女たちに『私刑(りんち)』を加えられて、「忘却」というその使者たちにわたされるであろう。財神(マモン)は正義の法則によって歩むのである。正直は、政治においても、また他の金儲け仕事におけるように、最善の策略であると信ぜられている。良人は人中では妻に接吻する、その妻を家庭では打つのである。賭博場は撞球場という名で、堕落した天使たちさえ『レーディース』の称号で通っている。酒場は外側から見えないようにすべて仕切りされ、人はその悪習を明かに恥じて暗黒の中で酒を飲む。すべて最悪質の偽善を生ずるもの、と諸君は言われる。しかし徳とは悪行の免許のことをいうのであるか。余はをうは考えない。
 それゆえにこのように善を悪から、天空を愛する雲雀(ひばり)を穴居する蝙蝠(こうもり)から、左側の山羊を右側の羊から区別するということ、― これこそ余は基督信徒の状態であり、我々がみなその中に入ろうとしている状態、善の悪からの完全な分離の前味(まえあじ)であると考える。この大地は、美しくはあるが、もともと天使の国として意図されているのではない。それは我々をある他の場所へ導く準備の学校として意図されているのである。大地のこの教育的価値が、それをそのあるべきものとなそうとする我々の貧しい試みにわいて、見失われてはならない。功利主義と、感傷的基督教と、古代ギリシャ人のようにこの世を神々の家であると考える他の浅薄なものどもとは、コロムウェルや他の少しも甘くない預言者たちにつまずくであろう、彼らはすべてのものを幸福にすることはできないからである。『最大多数の最大幸福』が正義公正な政治の正反対を意味する場合はあまりに多くある。天が下にコンゴー、ザムベシ河岸のアフリカのジャングルにおいてほど多くの『普遍的満足』の見出されるところはないと思う。霊魂の最善の訓練が可能であり、したがってこの大地の創造の本来の目的が最も善く実現されているその状態こそが、最善の状態であるのである。これが成就されたときには、我々はみなこの地を去り、我々の或る者は永遠の祝福に、他の者は永遠の非祝福に、そして大地そのものはその仕事を完了してしまったものとしてその原始の要素に還(かえ)ってさしつかえない。


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