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ケルトの妖精 №3 [文芸美術の森]

蝶にされたエーデイン 2

            妖精美術館館長  井村君江

 エオホズ王には、アリルという弟がいた。アリルはエーディンをひと目見て恋に落ち、病の床についてしまった。
 そうこうするうちに、エオホズ王は領国を見まわりに行くことになった。王は妻のエーディンに、自分の留守のあいだ、弟の看病を頼んだ。王は弟のアリルが自分の妻を思って病気になっているとは思いもよらなかったのだ。
 王が城を出てのち、エーディンの見舞いを受けたアリルは、おさえていた想いを打ち明けた。エーディンは、死ぬほど苦しんでいた病気の原因が、自分への想いのためであることを知ると、アリルの想いを遂げさせて病気を治したいと思うのだった。
 王宮の外の丘にある家で、エーディンはアリルに会う約束をした。
 しかし不思議なことに、三晩つづけて夜の約束の時刻になると、アリルはいつも深い眠気におそわれて会いにいけなかった。
 アリルの代わりには別の人が、エーディンの待つ丘の家にやってきた。それはエーディンの最初の夫、ミディールだった。
 そしてミディールは、
「ようやく、あなたと巡りあうことができた。妖精の国へ帰って、むかしのように一緒に暮らそう」と、エーディンを口説いた。
 けれどエーディンには前世の記憶はなく、ミディールは知らない人でしかなかったから、
 「あなたと行くことなどできません」とことわった。
 ミディールはなおも、ふたりが夫婦であったことや、ともに楽しく暮らしたことを語って聞かせ、常若の国の王宮に帰るように懇願した。
 ふたりをつなぐ、目に見えない糸を感じたエーディンは、ミディールの愛に心を動かされて答えた。
「エオホズ王が許してくれるならば、常若の国にまいります」
 王の弟アリルは深い眠りに落ちているあいだに、エーデインへの熱い恋の想いはすっかり覚めて、病気は治っていた。
 少したった夏の日、エオホズ王がターラの王宮から城の外に広がる野原を見おろしていると、見なれない騎士がやってくるのが見えた。その騎士は城門の前に立つと王に会見を申しいれた。この騎士はミディールだった。
 ミディールは、エオホズ王の前に出ると、チェスの銀の盤と金の駒を取りだして、
「ゲームの勝負をしたい」と申しこんだ。
 エオホズ王はこれを受けて、「勝負に負けたものは、相手の要求をかなえることにしよう」と取り決めをした。
 勝負がはじまった。ミディールははじめのうち、わざとチェスに負けてエオホズ王の要求に従った。土地をきりひらくこと、森林を伐採すること、川や沼に橋を架けることなどだったが、ミディールは魔法の力ですぐにやり遂げた。エオホズ王は自分のほうがチェスが強いと思いこんで、最後の大勝負を申しでた。
 ミディールは魔法の力を使って、その勝負で王を破った。
 そして王に、
「あなたの妻のエーディンに口づけをしたい」と要求した。
 エオホズ王は思案をめぐらしたが、
「ひと月のちに、その願いをかなえよう」と、しかたなく答えた。
 約束の日になった。しかしエオホズ王はターラの王宮を軍勢でかためてミディールが入ってこられないようにし、なりゆきを見守った。
 しかし、いつまで待ってもなにごとも起こらなかった。エオホズ王は安堵して、広間に人を集め、酒宴を開くことにした。
 そしてエーディンが、エオホズ王の杯に酒を注ごうとしたそのときである。ミディールが忽然と、ふたりのあいだに現れた。地下の王の高貴な衣服に身をつつみ、槍を手にしていた。ミディールは無言のままエーディンに近づき、人々がぽうぜんと見守るなかを、ふたりは広間の空中に浮かんだと見るや、王宮の窓から外へ飛んでいってしまった。
 人々の目に映ったのは、二羽の白鳥が輪を描きながら、スリヴナモンの山をさして飛んでいく姿だけだった。
 しかしエオホズ王はエーディンをあきらめなかった。ドルイド僧ダランに頼んで、三本のイチイの木にオガム文字で呪文を書き、また知恵の鍵を使って、エーディンの行方を国じゅうに探した。そして、ついにマン島のミディールの王宮にいることをつきとめた。
 そのときから九年のあいだ、エオホズ王は島じゅうの妖精の丘をつぎからつぎへと掘りおこし、王宮を壊していった。ミディールはそれを追いかけるようして、王宮を修復していったのだが、とうとう最後の丘に追いつめられてしまった。
 追いつめられたミディールは、エオホズ王にエーディンを返すことを約束せざるをえなくなった。
 しかしミディールは本心から返す気持ちにはならなかった。そこで、魔法を使って五十人の侍女をエーディンの姿そっくりに変え、
「このなかからほんもののエーディンを選べたなら」と謎をかけた。
 五十人のエーディンが同じ姿でエオホズ王の前に現れた。
 しかし、ミディールの策略は破れてしまった。
 エーディン自身が王に向かって、
「わたしがエーディンです」と教えたからだ。
 エーディンは妖精の王よりも人間の王を選んだのだった。
それからエオホズ王とエーディンは幸福に暮らし、二人のあいだには娘エーディンが生まれたのだった。

 ◆ 人間や妖精が動物や魚、昆虫に変わる変身や転身の話は、蝶になったエーディンをはじめ、ドルイド僧によって鹿に変えられたサィヴ、白鳥になった乙女などケルト神話のなかに数多く見られる。
 それは、この世は目に見えない異界と直結しており、人間はそこに住む目に見えない種族(神々、英雄、妖精)と自在に交流できるという、ケルトの古代からの考えにもとづいていている。また輪廻転生に通じる思想であり、人間や動植物には同じ命が宿り、共通した大霊が永劫に巡り、生命を転生させているという考えに結びついているものだともいえよう。

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