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日めくり汀女俳句 №33 [ことだま五七五]

四月三日~四月五日

          俳句  中村汀女・文  中村一枝

四月三日
許すべく人若く革芳ぐはしき
         「汀女芝居句集」 草芳し=春

 まったくどこへ行っても年寄りばかりだ。外出先から帰った夫がうんざりしたように言う。本人七十三歳、十分老人である。
 スーパーのエスカレーターで降りていくと十人のうち七人までがまず中高年、頭の真ん中が薄かったり、白髪染めがはげているのが目立つ。自分はどうなんだろうと降りた階でひょいと鏡を見る。当然ながらそこに映っているのはまさしくおばあさんであって、さっきまで上から見下ろしていた時の優越感、もしや自分は若いのではという思い込みが消えてしおしお肩を落とすのである。

四月四日
花昏(くら)し今しけはしき雲よりも
             『汀女句集』 花=春

 父尾崎士郎の随筆から。終戦後向島の古い旅館で住み込みで働いていた老女の話である。あるときラジオで君が代の放送を聞き、
「この歌はわたしの子供の頃から流行っていましたがずいぶん長く続いているものですね」。
 その自然な述懐が心を打ったという。
 今、父が国旗国家法の法制化を聞けば、またも同じ愚を繰り返すのかと言うだろう。保守的な天皇尊重論者であった父は、「私は天皇制に対する感情的な反抗はそのほとんどすべてが強制的な習慣に原因していると信じている ー 」と結んでいる。

四月五日
おもむろに雨にまた出づ猫の夫(つま)
           「山粧ふ」 猫の夫=春

 「まあ汀女さんって、ご主人がいらしたの」。
 意外という顔をされたことがある。後年は汀女の夫としてのわき役に徹した中村重喜も結婚したころは、官途の栄達を夢見る野心に満ちた青年、当時当たり前の亭主関白だ。若い頃の重喜は温和で協調的な男ではない。はげしい男でもある。
 私の夫が幼い頃、汀女とふろに入っていると戸ががらっとあいた。顔を出した汀女の頬にいきなり重喜の手がとんだ。気に入らないことがあったのだ。汀女は外出すると夫より早く家に帰ることをいつも心掛けていた。


『日めくり汀女俳句』 邑書林

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