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ケルトの妖精 №1 [文芸美術の森]

白鳥乙女カーと愛の神オィングス

             妖精美術館館長  井村君江

 オィングスは若さと美と愛の神であり、父のダグダは大地と豊穣の神で、ともにケルトのダーナ神族であった。オィングスの口づけは小鳥となって乙女の口もとにとどき、小鳥のさえずりは愛の想いとなって乙女の心に飛びこむといわれた。黄金の竪琴はやさしく美しい調べを奏でて、聴く者の心を奪った。
 オィングスは、ボイン河のほとりにある妖精の丘の王宮に暮らしていたが、ある夜、ひとり眠っていると、かつて見たこともない美しい乙女が現れた。おもわず寝台から手をさしのべると、乙女はかき消すようにいなくなってしまった。
 夜の白むまで、オィングスは乙女のことを思って寝つかれなかった。
 次の夜も、乙女はオィングスの夢のなかに現れた。その夜は笛を手にして、美しい調べを奏でていた。
 それから一年ものあいだ、毎夜、乙女はオィングスの夢のなかに現れては笛をふき、そして消えてゆくのだった。
 恋に落ちたオィングスは病気になり、しだいにやつれていった。多くの医者がその原因をつきとめられなかったが、フィンゲンという医者だけがオィングスの顔を見て、病は恋のためであることを見抜いた。
 オィングスは乙女がどこかに住んでいると信じて、乙女を探そうと思いたった。フィンゲンは母ボアーンの知恵を借りるようにと告げた。
 ボアーンは、悩む息子の想いを遂げさせるために、一年のあいだ乙女を探したが、見つけられなかった。夫のダグダにも相談したが、ダグダも探しあてることができなかった。
 そこでダーナ神族のマンスターのボォヴに頼みにいった。ボォヴはアイルランドじゅう
を探し、やっと一年ののちにガルディー山の竜の入口(ベル・ドラゴン)の湖のそばで、その乙女を見つけた。
 オィングスは馬車を駆って、ボォヴの王宮にやってきた。ボォヴは、三日のあいだ歓迎の宴を催したのち、乙女のいる湖へとオィングスを連れていった。
 湖のほとりには百五十人の乙女がいた。そのなかに、金の冠を戴き、金の首飾りをつけたひときわ美しい乙女が目に入った。
 「ああ、あの乙女だ!」オィングスは叫んだ。「あの方の名前を教えてください」
 するとボォヴは言った。
 「あの乙女の名はカーといい、コノートの国のウエヴァンの妖精の丘に住んでいる、エタルの娘です」
 オィングスは父ダグダのもとに帰ると、乙女を湖で見つけたことを話した。ダグダは、三頭立ての馬車を仕立てると、乙女の住むコノートの国に出かけた。コノートの国の女王メイヴと王アリルはダグダを歓迎して、宴会でもてなしてから用件をきいた。
 「息子のオィングスがエタルの娘に恋をして、花嫁にほしいと願っている」
 とダグダは頼んだ。
 アリルは「自分たちの力は妖精の乙女にはおよばないのだ」と答えたが、使者を妖精の丘のユタルに送り、ダグダに娘を与えるようにと交渉した。しかしエタルはその申し出をことわったので、戦いとなった。
 ダグダとアリルは連合軍を組織して攻撃をしかけ、エタルを捕虜にした。
 そしてアリルは、「娘をダグダの息子の嫁にしてほしい」と、エタルにふたたび頼んだ。「それはできないのです」エタルはまたしても、その申し出をことわった。

 不審に思ってアリルがそのわけをたずねると、ユタルは、
 「自分の力より、娘のカーにかけられている魔法の力のほうが強いのです」
 と答えた。そして、
 「娘は二年ごとに鳥の姿と人間の姿とに変わって、その年を過ごすのです。次のサウィン(十二月二日)には、白鳥の姿になって竜の口の湖で仲間の百五十羽の白鳥たちと泳いでいるでしょう」
 とアリルに言った。
 ダグダは、王宮へ帰ると息子のオィングスにこのことを知らせた。
 サウインの日に、オィングスは湖に向かった。百五十羽の白鳥が金の首飾りをつけ、頭上には金の冠を戴いて泳いでいた。
 オィングスは水辺に立って、白鳥の姿のカーに呼びかけた。
 「ここに来て、わたしと話をしてください」
 「わたしをお呼びになるのはどなたですか」カーは答えた。
 「オィングスです」
 それを聞くとカーは、オィングスのほうに近づいてきた。
 愛しい気持ちを胸いっぱいに、オィングスがカーを抱きしめると、オィングスも白鳥の姿に変わった。
 そして二羽の白鳥は、美しい白い雲を広げ、湖を巡ってからオィングスの王宮へと、連れ立って飛んでいった。飛びながら白い二羽の烏は美しい歌を歌った。それを聴いたものは、三日三晩のあいだ眠りつづけてしまったということである。
 カーはそれからのち、ずっとオィングスと楽しく暮らしたという。

◆ 気品のある白鳥の神秘的な姿は、「魔法にかけられた美しい乙女」という連想をかきたて、さまざまな伝説を生んできた。ケルト系の神話や妖精物語には、「白瓜乙女」(スワン・メイドン)の話が多くある。
 それらに共通するのは、主人公である乙女が魔法にかけられて白鳥の姿になっていることである。その白鳥が水浴びをしたり踊ったりしている姿に恋した男が、白鳥の羽のマントを盗んで妻にしたり、同じ白鳥になって恋を遂げたりする話があり、これは日本の羽衣伝説に似ている。
 継母の魔法の杖で白鳥に変えられ、九百年もモイルの海をさまよったリール王の四人の王子の話もよく知られているが、これは魔法がとけ人間に戻ると老人になり、すぐ死を迎えたという悲しい話である。

『ケルトの妖精』 あんず堂

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