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日めくり汀女俳句 №31 [ことだま五七五]

三月二十八日~三月三十日

          俳句  中村汀女・文  中村一枝

三月二十八日
振りかへり消ゆる土筆(つくし)もありにけり
             『汀女句集』 土筆=春
 蜂蜜にはまっている。料理に使うとこくが出る。ケーキにはまろやかさが加わる。
 蜂蜜というとやっぱり熊のプーさん。子供の童話のキャラクターでも五指に入る。いつ読んでも面白い。息子が幼稚園の時仲良しだったゆうちゃん、短いスカートから伸びた細い脚、黒い瞳の可愛い子。女手一つで育ち、いつも独りで留守番していた。小学校にあがった年、母親の故郷に帰って行った。
 お餞別にあげた熊のプーさんをしっかり胸に抱え、涙一杯の目だった。その話を息子にすると、えっウソ? という顔をする。

三月二十九日
踏青(とうせい)の傘にあまれる煙雨(えんう)かな
           『薔薇粧ふ』 肯き踏む=春
 小学五年で静岡県の伊東に疎開した。それまで、田舎というものを全く知らない都会っ子だった。
 田圃(たんぼ)の中の一軒家の小さい離れを借りた。足の下に草を踏むなんて初体験だった。すぐ側を川が流れ、瀬音が聞こえる。学校には畑のあぜ道を腰で拍子を取りつつ、向かいの遠くに見える神社まで歩いた。心細くて泣きたかった。
 何年か前そこを訪れ驚いた。田圃も畑もそして家も消えうせ、まわりは住宅ばかり。水害で多少変形したが川だけが面影をとどめていた。
 まさに「故郷の廃家」だった。

三月三十日
かかはらず住むといふこと春の闇
             『紅白梅』 春の闇=蕃
 去年の夏から家の天井に鼠(ねずみ)の気配、物がかじられタンスの中まで荒らされた。思い余って鼠駆除のプロを頼んだ。鼠必殺仕掛け人は紺のシャツと帽子、ズボン、黒のレザーのチョッキというダンディーな軽装で楓爽(さっそう)と現れた。
 近頃の鼠、知能も高く、さらに飽食。毒餌など見向きもせず、しぶとい。出口入り口をくまなく防ぎ粘着テープを置き、それでもいまだに徘徊している。
 よく考えてみると昔はこれみんな主婦のした仕事、現代の主婦は鼠一匹始末できない。ちょっと情けない気分でいる。

『日めくり汀女俳句』 邑書林

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