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フェアリー・妖精幻想 №106 [文芸美術の森]

仮面劇、シェイクスピア、バレエとオペラ 9

             妖精美術館館長  井村君江

ブリテンのオペラ『夏の夜の夢』

 メンデルスゾーンの作品から二八年後に、また新たにブリテンがオペラとして作曲した『夏の夜の夢』は、現代でもしばしば上演される。この作品は一九六〇年オールドパーグ・ジュビリーのフェスティバルのために七か月で一気に作曲された。ピーター・ピアーズと作った台本はシェイクスピアの原作に忠実であり、特に森の神秘を音楽で表現しようとし、登場人物の恋人、職人たち、妖精たちの各グループに異る種類の和音を使っている。妖精の表現には工夫がなされ、ハープとパーカッション、鈴が用いられている。
 オベロンはカウンター・テナーで歌われるが、付随旋律には金管楽器が使われ、「パックは歌わず、台詞と飛び廻る動きで天真爛漫さを表現させたい」とブリテンは言っている。
 初演ではジョン・ハイパーが衣裳と装置のデザインをしている。ブリテンの曲を聴いて東洋の絵を想像した彼は、全体の色調を緑色にして、そこに淡い東洋の墨を流したような銀ねず色を入れた結果、神秘的で夢幻的な舞台が出現した。そこに緑色のコスチュームの妖精たちが大きくこしらえられた植物の間を行き交う姿が、紗幕を通して夢のように見えるよう考案されていた。一九六一年にはコヴェント・ガーデンで上演されている。
 一九八六年にピーター・ホールがグラインドボーン・オペラ・フェスティバルで演出したときには舞台装置はジョン・バリイであったが、アセンズの森の木々を子供たちが手で持って動かし、持ち歩くさまが、樹木に生命があるように見えて効果的であった。
 オベロン(ジェイムス・ボーマン)とティタニア(イレナ・コトルバス)はフリル付きの襟をつけた豪華な貴族の衣裳に、銀の星をつけた白く高い髪にとがった耳が出て妖精を示していた。妖精たちはみな子役で、パック(ダミアン・ナッシュ)も赤い髪の小さな子供であるため、オベロンの命令を遂行する使魔(ファリーエール)の役目が強調され、プロスベロとエアリエルの関係が重なって見えていた。
 パックは上下左右に動く、クレーンつきの腰かけに身軽に乗ってオベロンの命令通りに動いたり、中空の樹の葉蔭にひそんで人々の様子を窺ったり軽妙で迅速な動きがよく演出されていた。
 最後はホウキでシーシウスの館の広間をはき清め、新床を祝福する。十二音階のような高音の不可思議な旋律に加えて、ボトムたち職人グループの踊りには、イギリスのフォーク・ミュージックのような旋律が響くこのオペラは、シェイクスピアの作品を再び現代の人々の間に広めていく魅力を豊かに持っているようである。        (完)

『フェアリー』 新書館


◆◆『フェアリー』は今回で終了です。次回より同じく井村君江先生の『ケルトの妖精』を連載します。

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