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西洋美術研究者が語る「日本美術は面白い!」 №6 [文芸美術の森]

                     シリーズ≪琳派の魅力≫

            美術ジャーナリスト 斎藤陽一

          第6回:  俵屋宗達「風神雷神図屏風」 その5
  (17世紀。二曲一双。各155×170cm。国宝。京都・建仁寺所蔵。)

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≪西洋の風神・雷神≫

 これまで俵屋宗達が描いた「風神雷神図」について語ってきましたが、今回は、趣向を変えて、西洋の「風神・雷神」について触れておきたいと思います。

 と言うと、果たして西洋には「風神雷神」にあたる神様がいるのかどうか、という疑問が起こるかも知れませんね。
 自然への畏怖と敬愛を神格化した日本の「風神雷神」とはやや趣きを異にしますが、西洋にも、絵画や彫刻によく取り上げられる“雷神”と“風神”は存在します。

 先ず、“雷神”にあたるのは、ギリシャ神話の主神ゼウス。神々の中の最高位にあり、神々と人間を支配する全能、全権力を持つ存在です。本来は「天空の神」であり、天候を支配する力をもっているのですが、敵や不届き者を倒すときの武器は「雷電(稲妻)」なのです。

6-2.jpg 例えば、太陽神アポロンの息子パエトンが、父の「太陽の馬車」を勝手に持ち出して天空を駆け巡ったとき、馬たちが暴走して世界中に大火災を起こしてしまいました。そこで最高神ゼウスは、雷を放ってパエトンを撃ち砕いた―という具合に、です。

 絵画や彫刻では、ゼウスの「雷電(稲妻)」は三叉または二叉の鉾のようなものとして、象徴的に表されています。
 たとえば、右図は「スミルナのゼウス」と呼ばれている、2世紀頃に制作された大理石のゼウス像(ルーヴル美術館蔵)ですが、その高く掲げた右手には、雷光が握られています。

 次に、“風神”にあたるのは、ギリシャ神話の「風神ゼフュロス」です。
 ゼフュロスを描いた絵でよく知られているのは、ボッティチェリの名作「春(プリマヴェーラ)」(1428年頃。ウフィッツィ美術館)。
 この絵は、今なお、そのテーマの解釈をめぐって様々な謎に包まれている作品ですが、ここでは、右側に描かれた三人の人物に限って見てみます。

6-3.jpg ゼフュロスは、風神とは言っても「西風の神」です。それも、春をもたらす風神です。地中海沿岸では、西から吹く風は春の風とされます。
 ギリシャ神話に登場する男の神々は概して美しい女には眼がない好色な神が多いのですが、ゼフュロスも同様です。
 ある時、彼は、美しい娘を見初め、追いかけて捕まえようとします。彼女は「冬の大地のニンフ」クロリスです。彼女が身にまとっている白い薄衣は「冬の大地を覆う霜」を象徴しているでしょう。ゼフュロスは、捕まえた彼女に「春風」を吹きかけています。
 クロリスは、ゼフュロスに捕まった瞬間、口から花を吐き出して、左の「花の女神」フローラに変身していきます。ボッティチェリは、クロリスとフローラを重なり合うように描くことによって“変身”を暗示しています。

 ギリシャ神話では、このあと、ゼフュロスはフローラと結婚し、自分の妻に「花の王国」を与えることになっています。

6-4.jpg 「花の女神フローラ」は、全身を花で飾り、手もとの籠からバラの花をあたりに撒いています。その足元の野原には、既にたくさんの春の草花が花開いている。
 そう、ボッティチェリは、この3人によって、春風の到来によって、冬の大地の霜が溶け、山野に春の草花が開花すると言う“冬から春への季節の変化”を表現しているのです。
 このように、ゼフュロスは、ちょっと好色な〝春風の神〟です。

日本の「風神」は、必ずしも春風だけを体現したものではありませんね。

 視点を日本の気候風土に戻せば、わが国では、一年を通じて、実にさまざまな種類の風が吹き、雨が降ります。
 試みに、手元の『歳時記』を繰ってみれば、たとえば、「風」だけでも、東風、貝寄風、涅槃西風、春一番、南風、黒南風、青嵐、秋風、初嵐、野分、台風、盆東風、鮭嵐、雁渡し、黍嵐、凩、北風、空っ風・・・「雨」にいたっては、春雨、春時雨、菜種梅雨、夏の雨、卯の花腐し、梅雨、五月雨、虎が雨、夕立、秋雨、時雨、氷雨・・・とまことに多彩に使い分けています。
 四季の変化に富んだ湿潤な気候風土が、このような多彩で繊細な表現を生んだのでしょう。
 
 ちょっと趣向を変えた回となりましたが、今回で俵屋宗達の「風神雷神図屏風」の話は終わりとします。次回は、俵屋宗達の水墨画の名品「蓮池水禽図」を紹介します。


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