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西洋美術研究者が語る「日本美術は面白い!」 №5 [文芸美術の森]

シリーズ≪琳派の魅力≫
                                     美術ジャーナリスト 斎藤陽一

                          
          第5回:  俵屋宗達「風神雷神図屏風」 その4
  (17世紀。二曲一双。各155×170cm。国宝。京都・建仁寺所蔵。)

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≪曲線が生み出す美≫

  もうひとつ、構図上の特徴を指摘すれば、たとえば両神の天衣のひるがえりや雲のかたち、雷神を囲む円形の連鼓、風神がかつぐ風袋など、いたるところに大小さまざまな円の相似形が見られるということです。そして、それらの円は互いに呼応し合い、流麗な曲線美を奏でている。

 このような、曲線的な造形感覚もまた、日本美術の特質のひとつと言えるものです。
はるか昔には文字を持たなかった日本人は、中国から「漢字」を導入して和語を文字化しましたが、やがて、そこから「ひらがな」を生み出しました。「漢字」の基本骨格が直線であるのに対して、「ひらがな」は曲線的な和文字です。

 また、絵画の世界では、中国伝来の絵画を「漢画・唐絵:からえ」と呼んだのに対して、日本独特のモチーフを描き出すものを「大和絵」と呼びました。「大和絵」の造形的特徴のひとつは「曲線美」です。
 俵屋宗達の「風神雷神図屏風」には、そのような日本的な造形感覚が潜んでいます。

 2018年秋期に東京国立博物館で特別展「縄文~1万年の美の鼓動」が開催され、たくさんの土器や土偶が展示されました。とても啓発的な展覧会でした。その分、考古学的な視点よりも美学的な視点による展示方法や解説となっていたため、批判もありましたが、私はじっくりと展示品に対面して、縄文人の美意識について目を開かされることが多々ありました。
 そこで感じたことのひとつは、土器であっても土偶であっても、縄文人の装飾(飾り)に対する強い執着心であり、とりわけ「曲線」を多用した装飾が目を引き付けました。
 たくさんの例を挙げることが出来ますが、ここではひとつだけ、縄文時代(中期:前3000~2000年)に作られた「深鉢型土器」(高さ75.5cm。群馬・渋川市教委)を紹介しましょう。下図のように、器の形も曲線を意識した作りであり、胴部全体を渦巻状の曲線がびっしりと埋め尽くしています。

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      (2018年・東京国立博物館:特別展『縄文~1万年の美の鼓動』より)

このような「曲線」や「円形」を好む古代人の感覚は、日本の湿潤な風土や穏やかな自然、豊かな水に囲まれた環境、太陽や月に対する呪術的な信仰、寒冷期を脱して安定期に生きるゆとり感、などといったものに由来するという説があります。おそらく、それらの要因が複合的に重なり合って、曲線を美的に好ましいと感じる感覚を醸成していったのではないかと思います。

 ともあれ、わが国独特の自然や風土の中から培われた、日本人の遠い祖先・縄文人の美意識は、その後も伏流水となって密やかに流れ続け、我が国の芸術を潤しているのではないでしょうか。琳派はそれを洗練化した、という見方も出来るかも知れません。


≪人間的な肉体感≫

 第2回で、この絵の風神・雷神は「恐ろしい自然神というよりも、どこか人間的で、何とも言えない飄逸味が感じられる」と申し上げましたが、そのような感じをもたらすのは、風神・雷神の、神というより中年男のようなぼよぼよっとした肉体感にも由来するように思います。

5-4.jpg 専門家の指摘によれば、宗達は、二神の身体を描くに際して、最初から太めの輪郭線で線描きしたのではなく、周囲から色を施しながら輪郭の部分を地のままに塗り残し、そのあと、塗り残した部分に太めの絵具を塗り入れた、というのです。
 これは「彫塗(ほりぬり)」と呼ぶ技法で、この結果、最初に輪郭線で姿をくっきりと形どる場合に比べて、もっとふくらみのある、もやもやとした線となり、風神・雷神の筋肉の盛り上がりや腹のたるみ具合がよりリアルに感じられる、という次第です。

かくして、一見するとこの屏風絵は、広い金地に風神と雷神という二つのモチーフだけを描いた簡潔そのものの絵に見えますが、こんな風にじっくりと眺めていると、宗達が仕組んだいくつもの仕掛けが見えてくるという、なかなか味わい深い「絵画作品」なのです。

宗達作品の持つ斬新な「絵画性」という特質について、「宗達においては装飾的であることと絵画的であることが合致する」「宗達は、絵画の純粋性と、それを生み出す画家の主体性を志向する近代性という文脈でこそ語り得る存在」と言う古田亮氏の著作から貴重な示唆をいただいたことを付記しておきます。(古田亮『俵屋宗達~琳派の祖の真実』平凡社新書)

次回は、ちょっと趣向を変えて、西洋の“風神・雷神”について、おしゃべりしたいと思います。
(次号へ続く)

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