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余は如何にして基督信徒となりし乎 №58 [心の小径]

第九章 基督教国にて―神学の一瞥 4

                      内村鑑三

 また霊魂回心(soul-converting)、教会員製造(church-member-making)、その他それに類した仕事の手段と方法とについては如何。手段と方法とによって基督教に霊魂を回心せしめられたものは手段と方法とによってやはり異教に再回心せしめられる。この唯物主義的時代にある我々は環境をあまりに重視すぎる。ダーウィニズムはついに基督教を回心せしめてしまったように見える。立派な合唱隊、愉快な教会親睦会(しんぼくかい)、若い婦人たちのバザー、無料のランチ、日曜学校のピクニック―およそそういうものが今や精神を維持するに重要な手段と考えられている、そして『牧公神学』の大部分はそういう仕事で占められているように見える。そしてもし洗練された修辞学が若い神学生によって「火」より以上に熱望されているとすれば―そしてその「火」さえも修辞学のためである―、そしてもし説教者の説教は火を点じ偶像を破壊する画より以上に雄弁的演劇的の見地から論ぜられるとすれば、―クリソストムが黄金の響きをもつ天からの託宣(たくせん)を述べた彼の舌を詛(のろ)い、アウガスティンが修辞学を欺瞞(ぎまん)の術として軽蔑するのももっともである。もし、批評家が我々に告げるように、聖パウロは人間のうちで最も美しい人ではなく彼のギリシャ語はギリシャ語としては最も純粋なものでなかったとすれば、もしポシュエーの雄弁とマシヨンの名文がフランス革命の猛襲を転じ得なかったとすれば、もし鋳掛け屋パンヤンと商店主ムーディがその時代の望みえたような立派な福音の真理の宣伝者となることができたとすれば、―それならば余は神学校において余の学業を修了することができなかったことを悲しむ必要はない。
 余は諸君に告げた、余が神学校に来たのはけっして聖職者免許は受けないという約束によってであったと。親しい友人のうちには余が聖職者免許を得るまで続けないで神学研究を去るのを悲しんだものもあった。余にとっては、しかし、聖職者免許は余が真剣に恐れていたものであった。そして余に対するこの新しい特権の授与について余がいだいていた恐怖がさらに大きくなったのは、その利益が神学校の壁の内部で噂されているのに気がついたときである。『牧師館つき一千ドル』、『シカゴ無政府状態についての二十ドル説教』、またそれに増したそういう語句の組合せがはなはだ不協和に余の耳に響いた。説教が豚肉やトマトや南瓜(かぼちゃ)がもつような市場価値をもつということは、少なくとも東洋的観念ではない。我々東洋人は甚だ疑い深い人種である。そうジョン・スチュアート・ミルは評し、我々をカトリック・スペイン人に比較した。そしてなんぴとをも我々は宗教を売物にするもの以上には疑わない。我々には、宗教は普通には現金に替えらるべきものではないのである。じつに宗教が多ければ多いだけ現金は少ない。我々は迷信的であるにしても、末だ宗教と経済学とを和解させることはできない。そしてもし聖職者免許が我々の宗教に市場価値を印するのであれば、幸福なるは余がそのように印せられないことである、なぜなら余はそのようにして誘惑から免れるからである。
 じつにこの有給伝道という事はまだ我々にははなはだ議論の余地ある問題である。我が異教の教師たちは自分たちの勤めに対し何ら規定の報酬を受けないのを常とした。毎年二回、その弟子たちはめいめいの力で持参できるものを何でも教師のところに持参する。金十枚から大根や人参の一束まで、かような贈物、『御礼の印(しるし)』(とそれは呼ばれていたが)には段階があった。彼らには教会税、座席料、その他そのようなもののために彼らを死ぬまで小衝(こづ)く教会執事はない。自分の肉体の維持のために全く天と自分の同胞とに頼ることができるまでに精神的訓練に十分な進歩を遂げてしまうまでは、教師は教師にして教師ではないと思われたのである。これを彼らは最も実際的な『自然淘汰(しぜんとうた))』の方法、こうしてにせ教師や時代迎合者を押しつけられる危険はないものと考えた。
 余はみとめる、人が生きるのは霊のみによってではなく、地より生ずるすべての物にもまたよることを。これは有給伝道のための一つの議論である、そして我々はこれはまったく正当な議論と考える。我々の今日の生理学は心理的の力と精神的の力を.バンと羊肉の数片から推論する、それなら何故『エネルギー可変性』の原迫にもとづいて精神を羊肉と交換しないのか。健康についての神の律法は、頭脳を働かせ心臓に負担を讃する福膏の聖職者が適当にまた相当に衣食を供せられることを要求するのである。


『余は如何にして基督信徒となりし乎』岩波文庫

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