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私の中の一期一会 №183 [雑木林の四季]

        大坂なおみ・全豪女子シングルス決勝で世界最強のクビトバを破る!
      ~「ペトラ、私はグランドスラム決勝で対戦出来て光栄に思っています」~

        アナウンサー&キャスター  藤田和弘

 2019年1月26日、日本のテニス史に新たな1ページが刻まれた。
 この日、メルボルン・パークで行われた全豪オープンの女子シングルス決勝で、日本の大坂なおみ(21)がチェコのペトラ・クビトバ(28)を7-6、5ー7、6-4で破り、グランドスラム連覇を達成したのである。
 昨年の全米オープンに続く4大大会2連覇は、世界ランク1位の座を確定させる快挙であった。
 グランドスラム連覇や世界ランク1位なんて、今までの日本テニス界では想像も出来なかったことだろう。   大阪なおみは男女を通じて初めての最高の栄誉を日本にもたらしてくれたことになる。
 大坂なおみ対ペトラ・クビトバの女子シングルス決勝は、26日夕方5時半からNHK総合で生中継された。
 折りから、大相撲初場所は14日目で、これから貴景勝や玉鷲が土俵に上がってくる時間帯だったが、私は躊躇うことなくチャンネルをテニスに切り替えた。
 ペトラ・クビトバは182センチの長身で左利き、逃げていくスライス・サーブに定評のある強敵であった。2011年と14年のウインブルドン・チャンピオンでもある。
 初顔合わせのクビトバを大阪なおみが攻略するには、「第1セットをどう戦うか」にかかっていると私は思っていた。
 聞くところによると、逃げていくスライス・サーブを“逃げる前に叩く”ため、なおみがサーブを受けるときの立ち位置を、コートの中に変えて試合に臨んだのだという。
 前に出る立ち位置は普段あまり使わない大胆な策だったが、前に出られるとサーブのコントロールが難しいため相手もサーブに神経を使うことになる。ミスする確率も高くなるのだ。
 試合は、互いにサーブでポイントを挙げ一進一退の第1セットになった。
 だが、強豪クビトバに“歯が立たないな”という感じは全くなかった。
 印象的だったのは、優勝がかかる大舞台なのに大阪なおみは終始落ち着いてプレーしていたことである。
 強打するのか、つないでラリーに持ち込むのかを冷静に見極めていたことが試合後に分かった。
 緩急を織り交ぜ相手のミスを誘う余裕もあった。思い通りいかなくても受け入れる“心のコントロール”が出来るようになっていたのだ。勝負を急がなかったのは心に余裕があったからであろう。
 初めはかすりもしなかったクビトバのサーブに、徐々に対応できたことがブレークにもつながったと思う。
 タイブレークの末に7-6で第1セットを取り、大阪なおみは小さくこぶしを握った。
 クビトバは準決勝までの6試合で一度もセットを落さず、全てストレート勝ちできていた。
 そのクビトバが初めてセットを落としたのである。
 第2セットも“なおみペース”だったが、5-3とゲームをリードしてマッチ・ポイントを3度も握りながら、4ゲーム続けてポイントを取られ、このセットを5-7で失ったのだから、勝負は下駄を履くまで分からないというのはホントである。
 押し気味だった大阪なおみは、苛立ちの声をあげしゃがみ込んだ。
 この時、テレビの前で「ヤバイな」と思た人が多かったに違いない。クビトバの最後まであきらめない粘り強さには感心するしかなかった。
 トイレブレークを取った大阪なおみが凡そ1分40秒後に戻ってきた時、「なおみは全く別人の目をしていた」とクビトバは試合後に語っている。
 最終セット、1-1で迎えた第3ゲームで試合の流れが変わった。粘り強くクビトバのサーブを返しジュースに持ち込んだのが大きかった。
「大坂のリターンのプレッシャーに気圧されたかのように、クビトバがダブルフォールト・・」と新聞記事にも書かれているが、クビトバにミスが出たのだ。
 大坂は、この第3ゲームをバックハンドのクロスで決めてブレークに成功したのである。
 190キロを超える高速サーブがエースとなって最終セットを6-4で制した大阪なおみは歓喜の瞬間、ラケットをコートにつき、しゃがみ込んでいた・・
 優勝トロフィーを手に大阪なおみは気負いのないスピーチをした。
「ハロー、パブリック・スピーキングは得意じゃないんです。何とか乗り切れるといいんですが・・
(クビトバに向かって)ずっとあなたと対戦したいと思っていました。大変なことを乗り越えてきましたね。あなたと最初の試合がこの決勝戦でしたが、とても素晴らしいプレーでした。あなたと対戦出来たことを光栄に思っています。ファンの皆さん、暑い中の応援に感謝します。
 スピーチのメモを読んだけど、何を言うのか忘れてしまいました。みなさんホントにありがとう。優勝戦でプレー出来て光栄です」・・観客は笑いながらスピーチを聞いていた。
 クビトバは2016年12月、自宅に押し入ってきた強盗に襲われ、利き手の左手に重傷を負っていたのだ。選手生命が危ぶまれる中、神経を修復する手術を受けてリハビリは半年に及んだ。
コートに戻ってきたのは17年の全仏だった。クビトバがグランドスラムの決勝戦を戦ったのは、14年のウインブルドン以来であった。
 ペトラ・クビトバは涙ぐみながら感動的なスピーチをした。
「素晴らしい決勝戦でした。このような素晴らしいトーナメントでプレー出来て光栄に思います。みなさんに感謝します。何より私のチームにとても感謝しています。ラケットを握ることが出来るかどうかも分からなかった私を見捨てずに支えてくれて、ホントにありがとう。毎日私を支えてくれて、ポジティブでいてくれたことが私には必要でした。簡単なことではなかったはずです。ファンの皆さん、ありがとうございました。なおみ、おめでとう」
 このスピーチを聞いていたコーチの目からは涙が溢れそうだったとという。
 クビトバの左手はいまだに100%ではない。完治することはないだろうと言われているとか。
 手術した時は、またこんなふうにプレーできると想像も出来なかった。「だからとてもうれしい」と彼女は言うのだ。
 全豪決勝では勝てなかったが、“クビトバにとっての最大の戦いには勝った”のである。
 NHKが生中継した全豪女子シングルスの決勝は、平均視聴率が24%だったことが分かった。
 日本中で約2000万人がテレビ観戦していたことになるという。
 瞬間最大視聴率は大阪なおみに優勝トロフィーが授与された時で、スピーチの頃は38.5%まで上昇していた。
 38.5%は2550万人に相当する数字だが、WOWOWでも放送されていたので、その数は更に増えると考えられる。
 2000万を大幅に超える日本の視聴者がヒロイン大坂なおみに魅了されたことを示しているといえよう。
 世界の女子テニス界に「なおみ時代」到来の声が出始めている。
 

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