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ロシア~アネクドートで笑う歴史~ №94 [文芸美術の森]

開放的なダイアローグ

                  早稲田大学名誉教授  川崎 浹

 アルメニア放送に凝縮された政治アネクドートが質問と回答の二項対立的ダイアローグに見えながら、じつは閉鎖的なモノローグに近かったのにたいし、新ロシア人アネクドートはおおっぴろげな開放的なダイアローグである。したがって、一つのアネクドート自身、対話的だが、多数のアネクドートがあたかも連歌のごとくつながっていく。

 秘書が上司にいった。
 「控え室でみなが社長を待っています」
 社長がびっくりして尋ねた。
 「ジャーナリストかやくざ(レケチール)か」
 「税務の監査官たちです」
 「あなたはすでに私のことをあなたの社長に伝えたのでしょぅね」
 秘書に税務監査官が尋ねた。
 「社長は一時間後に戻ってきます」
 「どこへ行ってしまったんですか」
 「家族に別れをつげに行ったのです」

 「あなたは国家から自分の収入の大部分を隠そうとするのですか」
 新ロシア人に税務署員がいった。
 「私には責任ありませんよ。あなたの〈収入〉欄の記入場所がひどく少ないうえに、全部のゼロを記入する空白がなかったのですからね」

 新ロシア人にたいして裁判がおこなわれた。裁判官がいう。
 「被告、あなたが最後にいいたいことは?」
 「一〇万でどうです!」

 新ロシア人に一時的に新しい簿記係が必要になった。
 「私にはたいへんきちんとした候補者がいるのですが」と支配人がいった。
 「ただかれはまだ半年はど坐っていなければならないので」

 「坐る」といえば共産主義の時代から刑務所に入ることを意味していて、その意味は現在でも変わっていない。しかし、同時に彼らはカジノにでかけたり、旅行を楽しんだりしている。いまやロシアと縁のふかいギリシャ(ロシア正教の源流)やイタリア、スペインだけでなく、ハワイにまで足をのばすようになった。

 バカンスを過ごした新ロシア人どうしが話をかわす。
 「カナリア諸島でくつろいできたよ。ところで、君はどこへ行ってきた」
 「まだフィルムを現像してないので、正確には思いだせないな」 


『ロシアのユーモア』 講談社選書

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