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往きは良い良い、帰りは……物語 №65 [文芸美術の森]

往きは良い良い、帰りは……物語  (こふみ会)
その65    TCCクラブハウスにて
『霜の声』『レモン(檸檬)』『嚏(くさめ))』『海猫(うみねこ)』
                                         コピーライター  多比羅 孝

◆◆平成30年10月29日◆◆
当番幹事(大谷鬼禿氏&田村珍椿氏)から案内状が送られて来ました。

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  「十一月こふみ会」のおしらせ                           幹事=鬼禿・珍椿
前略  先月『鎌倉吟行』ご苦労様でした。 その折り、今月の幹事の指定を忘れましたので、今回は僭越ですが、鬼禿と珍椿が引き続き幹事をさせていただきます。
猛暑だ、颱風だと云ううちに十一月七日は「立冬」。今回は冬の季語で四句作って頂きます。ふるってご参加ください。
尚、昼食は用意いたします。酒・飲み物の差し入れは歓迎です。
景品は3点(計1000円程度なるべく食品)ご用意ください。
●期日=十一月十一日 (日)午后一時より
●会場=表参道・東京コピーライターズクラブ
          (TEL. 03-5774-5400 渋谷区神宮前5-7-15 TCC)
●会費=1500円の予定
●兼題=【霜の声】
   寒夜しんしんと霜が降る気配をいう
   『母亡くて 寧き心や 霜の声』 波郷
 兼題=【レモン(檸檬)】
       『レモン割り 搾るや風邪の 弱力』 烏頭子
●出欠の連絡は必ずメイルでお願いします(11月5日迄)
 今回の連絡先 ≪矢太≫岩永嘉弘 <info@roxcompany.jp>
              cc≪鬼禿≫大谷博洋 <h-otani@amber.plala.or.jp>
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これを受けて私・孝多は下記のようにFAXで返信しました。

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  こふみ会 十一月幹事様
   ご案内有難うございました。 
  出席致します。よろしくお願い申しあげます。
   兼題のひとつは「霜の声(聲)」ですね。白川静著・平凡社の『常用字解』によれば……
  「聲」は「殸」と「耳」を組み合わせたもので、「殸」は吊した石の楽器を殴(う)ち鳴らすこと。耳に聞こえるその音が「聲」。
   つまり、「おと」「ひびき」。それがもとになって、やがて「ひとのこえ」「うわさ」にもなりました……とのこと。
   今は「声」だけですけれど。
   
   では当日(十一月十一日)皆さんにお会い出来るのを楽しみに致して居ります。   草々                             

             平成三十年十一月四日    孝多

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軒外氏からは下掲のとおりです。例によって素晴らしい返信!

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◆◆さて、当日(11月11日)はと言えば……◆◆
参加者11名。各自、お好きな席につくと、幹事によって張り出されました。
本日の兼題と席題。ご覧のとおりです。

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でも、≪おっとっとお≫です。「海猫」。
兼題のひとつ「レモン」は(輸入によって一年じゅう店先に見られるもの、つまり、季節不問という面もありますけれど)「柚子・ゆず」や「酸橘・すだち」との関連で、多くの歳時記に載っているとおり、「秋」と特定しても差し支(つか)え無いでしょう。通年であると同時に、です。しかし「海猫・うみねこ」となりますと、ちょっと違うようですね。
「春の」とか、「秋の」とか、「冬の」とかと付かない限り、「海猫」は断然として「夏」のものです。ためしに「夏の海猫」としてみたら、どんなに阿呆らしく、間の抜けた表現になってしまうことか。「海猫」は「夏」のものに決まっているのです。
ですから逆に、「春の」とか「秋の」とか「冬の」とかを付ければ「海猫」は生まれ変わったような新しい意味合いと、力(ちから)を発揮するようになる、という次第です。
夏の季語として定着し、どの歳時記にも「夏」と出ている「海猫」を、私たちは今回「冬」として詠むことになったというオハナシ。(幹事さんからの案内状にも「今回は冬の季語で四句云々」と明示してあります。)
★でも、誰も、このことを気にしていなかった様子です、まあまあ、そんなにオカタイことは云わずに……。楽しみましょうよ、というところでしょうか。
★私も何も言いませんでした。気付いた人もあったでしょうが、その人も黙して語らずでした。

◆◆しかし、何という偶然か、角川の月刊誌『俳句』12月号で……◆◆
特集したのです。座談会「歳時記の過去・現在・未来」。
記事にして16ページに及ぶこの座談会のメンバーは片山由美子さん、長谷川櫂氏、そして神野紗希さんのお3方。神野さんは『これから始める俳句・川柳・いちばんやさしい入門書(池田書店)』を、我らが闘士・水野タケシ氏と、共著でものされた新進俳人。
お3方の意気が合って、素敵な座談会。中でも印象的だったのは「文学的な朝顔と科学的な朝顔は別」という見出しと、それに続く片山さんと長谷川氏の言葉。ショックでした。少し長くなりますが、ここに引用します。

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●文学的な朝顔と科学的な朝顔は別
≪神野≫ 歳時記は文学的なことだけではなくて、民俗学、天文学もあるし、地理的なものも入ってくるし、たくさんのジャンルにまたがっていますからね。
≪片山≫ でも、百科事典ではないから、科学的な事実を客観的に書けば歳時記の解説になるかというと、そうではない。そこをどう擦り合わせるかが難しい。
≪長谷川≫  今、片山さんが言われたことはとても重要です。ふつう歳時記の解説は、科学的なことと文学的なことを分けずに一本で書く。これをやる限り、例えば解説で「朝顔は梅雨のころ、つまり夏のころから咲いているが、秋の季語である」と書かなければいけない。しかし、これが普通の人にはとてもわかりにくい。だから、文学的な朝顔と科学的な朝顔は全く別だということをはっきりさせたほうがいいということで、「ネット歳時記」では分けてあります。科学的見解は植物学の先生に解説をお願いしました。「これは夏の半ばごろくらいから咲き始めて……」と書いてある。文学的な見解は俳人が書いています。「朝顔は秋の季語で、露のようにはかないという本意がある」と。
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凄いですね。ガーンと一発、なぐられた思いがしました。
こふみ会の私たちは、先きほどの「冬の海猫」を真剣に、そして愉快に、もっともっと、語り合うべきだと痛感しました。
歳時記とは何か。歳時記から本当に自分の栄養になるものを吸い取るためにはどうすればよいか、それを考えることが即、自分の俳句を考えることになるのではないかと思いました。
『俳句』12月号が発売されたのは、11月25日。11月のこふみ会が行われた2週間後のことでした。「めぐりあわせ」ですね。

◆◆句会と言えば酒と肴で……◆◆
今回も当日(11月11日)お開きになったのはこの時期、まだ明るいうちなのですが、ヒルヒナカ、作句しながらクラブハウスで飲んだ『八海山』の美味(うま)かったこと!うっとりするほど!弥生さんの差し入れなのです。有難うございました。

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銘酒・八海山

幹事の鬼禿氏が持って来てくれたのはインドの缶ビール。ブランドネームは、確か「青鬼」。
感謝。勿論、初めて。爽やかな味に驚きました。  ゴクゴクゴクッ!

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有職の「彩りばら寿司」

肴(弁当)は幹事さんのお気に入り、赤坂の(株)有職製の「彩りばら寿司」。でもヘンだなあ。寿司折りの包装紙や箸袋に印刷されている「有職」のロゴの脇に、ローマ字でYUSHOKUとあるのです。
おかしいなあ。耳ではなく、言偏で「有識」、その読みは「ゆうしき」、と言うのもアリ、と辞書にも出ていますが、これはあくまでも別な意味か、例外。ふつうは耳偏の「有職」「ゆうそく」ですよね。ローマ字で書くならYUSOKU。
株式会社有職は、故意に、読み方の例外を社名にしたのかしら。製品の寿司は味も見た目も良く、米と具のバランスもナイスで、全体の量も箸当たりも非常に好ましく、伝統を重んじ、ならわしを守るように出来ているのに……。その基本となる「有職故実(ゆうそくこじつ)」には関係ナシ、なのかなあ。
一度、幹事さんに聞いてみようっと。

◆◆さあて、さてさて……本日の結果発表です◆◆
いつものように、投句、選句、披講と進んで、各人の点数が正の字によって記録、計算されて、いよいよ結果発表で~す。係が声を張って……

◆本日のトータルの天は~54点の弥生さ~ん!断然トップ!パチパチパチッ。
代表句は「大嚏 してふとなごむ 午後のバス」

◆トータルの地は~30点の孝多氏!パチパチパチッ。
代表句は「くさめして 私が私の 相手です」

◆トータルの人は~28点の虚視氏!パチパチパチッ。
代表句は「逢うは苦 逢はぬも苦なり レモン嗅ぐ」

◆◆トータルの次点は~23点の美留さ~ん!パチパチパチッ。
代表句は「レモンスカッシュ 予備校帰りの 逡巡」

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左から地の孝多、天の弥生、人の虚視、撮影=軒外。(敬称略)

パチパチパチッ! 皆さん、おめでとうございました。これにてお開きですが、来月は師走・忘年句会ですよね。幹事さんはどなたになりますか。いずれにせよ、会からの援助「特別予算」を用意することに致します。楽しくやりましょう。あとは幹事さんにお任せ!パチパチパチッ!では皆さん、お元気に。(孝多)
                                    第65話 完

        
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天位に贈られる短冊。11月も賑やかでした。「全句」は下記のとおりです。
                                                    
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     第587回 こふみ会・全句
          平成30年11月11日      於 TCCクラブハウス

◆兼題=霜の声        順不同
音も無く もの思えばただ 霜の声       孝多
人肌の 優しさに聴く 霜の声                   美留
刻々と 闇を貫く 霜の声                        舞蹴
霜の声 高圧線の 微動せり                     矢太
眠られず 霜の声聴く 午前四時                珍椿
別床の ふたりそれぞれ 霜の声               鬼禿
星翼 広げ尖塔に 霜の声                       茘子
枕辺に 霜の声聞き 夜の嘘                     軒外
夢に会ひて 覚めれば独り 霜の声             弥生
夜明かしの 窓開けて青い 霜の声             一遅
久々の 便りは訃報 霜の声                     虚視

◆兼題=檸檬(レモン)     順不同
青レモン ガリリと噛む 智恵子の青空          鬼禿
ゼームス坂 檸檬かじって 逝った女(ひと)   軒外
逢うは苦 逢わぬも苦なり レモン嗅ぐ           虚視
画集の上に 檸檬をひとつ あの人に            弥生
乙女らは 檸檬の乳房 アンドゥトロア            茘子
庭のレモンの木 今年は三つなり                 珍椿
凛として 檸檬ひとつ 青い皿                     舞蹴
病室の 檸檬黙して 主無く                       一遅
レモンスカッシュ 予備校帰りの 逡巡           美留
レモン絞(しぼ)ろ もうすぐ魚が 焼けるから    孝多
レモン噛る 観覧車は 動かない                  矢太

◆席題=嚏(くさめ)      順不同
あくびして くさめなどして 日は暮れぬ           虚視
雨の夜は 嚏相手に 一人酒                     茘子
大嚏 してふとなごむ 午後のバス                 弥生
くさめして 私が私の 相手です                  孝多
畳の目 かぞえて 嚏一つ                          珍椿
くさめひとつ 熱燗を持つ 所在無さ               一遅
学生服で 嚏した母の死                             軒外
「好きです」と 言はれし直後 大嚏                 鬼禿
未熟児の 嚏に怯ゆる 母なりき                   美留
見栄張って だての薄着に くさめする             舞蹴
くさめひとつ ひとよひとよの ひとりごと           矢太

◆席題=海猫          順不同
海猫の 飛び来る町や 旅の果て                    一遅
海猫め ぬけ目なく餌を 取りやがり                 珍椿
海猫が 鳴くよ我らは 酌(く)み交わす              孝多
海猫の 乱舞鳴き声 まねてみる                     弥生
海猫は 涙恋旅 別れです                            茘子
明日の定(さだめ) いつも群れ飛ぶ 海猫に聞け  軒外
海猫は 波頭の記憶の 中へ飛ぶ                    矢太
海猫が 知らせる便り 夫(つま)帰る                 舞蹴
浄土ヶ浜 海猫パンを 掠(かす)め去る              美留
海猫の 声聞くだけの 旅に出る                       虚視
栓抜けば 遠く海猫の 声する                         鬼禿

                                    以上11名44句

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水野タケシ

孝多先生、総合「地」賞、おめでとうございます!!

私の名前も出していただき、ありがとうございます!!

忘年句会もどんなドラマがあるのか、楽しみにしています!!

(*’ー’)ノシ
by 水野タケシ (2018-12-01 04:04) 

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