SSブログ

ZAEMON時空の旅人 №9 [雑木林の四季]

                 第四章 「サマライズ」

                                        文筆家  千束北男

 ZAEMONが最初に完成した手づくり宇宙船ピルグリム一世は、極秘のうちに八ヶ岳の隠れ家研究所に搬送されて、深夜に打ち上げテストが行われたが、点火直後、あわれにも大音響とともにサイロを改造した実験棟の屋根に大穴を開けただけで、墜落してしまうのであった。
 「まさか、原爆の研究しているのではないでしょうな、先生!」
 地元消防団から大目玉を食らったが、徳治さんが、
 「時期外れに、花火など打ち上げて申し訳ありません」
と、早手回しに地区一帯を手みやげ下げて平謝りに謝ってまわったので、反対運動も起らずに、なんとか研究所の閉鎖をまぬがれたという。
 ZAEMONと徳治さんは、勿論ピルグリム一世に乗り込んでいたが、発射直前に運良く緊急脱出装置が働いて、あやうく九死に一生を得たのだが、ZAEMONは、実験失敗の落胆からか、ひどい鬱に陥って、静岡県熱海のN浦、伊豆大島火口などなどの、昔著名だった自殺の名所や、自殺者が多いという噂のビルの屋上、高層団地のベランダなどをさまよい歩くありさまで、ようやく落ち着くまでに、二年かかったという。

 さらに二年後(だとZAEMONは言ったのですが、どうもこのあたりから、ZAEMONの年齢が不確かになった原因ではないかと思われる、記憶の不確かな部分があります)完成したピルグリム二世は、ZAEMONが立てた仮説のとおり、世間にはもちろん一切発表しなかったし、学会の話題にもならなかったが、なんとか宇宙には出た、らしい。
が、あちこちさ迷ったあげく、ついにワームホールにたどり着くことが出来ずに帰還してしまった。この帰還の際にも「時間のずれ」が少々あって、これもまたZAEMONの年齢不詳の原因の一つになっているようだ。
 が、しかし、ZAEMONは、いささかも懲りるとなく、
 「逆に、その時間のずれこそが、ピルグリム二世でタイムトラベルしてきた証拠だといえるのだ」
と、アインシュタインの理論を引用して、胸を張った。
 そして、さらに二年後。
 完成したピルグリム三世は、ZAEMONの期待通りワームホール入口に到達、超高速異星間移動網(Star trekking network)に入ることに成功し、乗り換え場所(hub-station)にたどり着いた。
 ハブステーションは、いわば高速道路のサービスエリアのようなもので、いろいろな先進宇宙人のたまり場になっていて、一種のカフェかパブのような施設もあったという。
 ZAEMONは、そこで出逢った自称宇宙パイロットの第一人者、見かけは地球の猿そっくりの生物エイパと懇ろになり、宇宙パイロットとして採用、目標のアルファ惑星に向かったのだが、エイパが「重力嵐」への対応に失敗して時空を迷走したあげく、あろうことか西暦2030年の地球に行ってしまった。
(山本久美子先生! いきなり奇想天外なことになりますが、お願いですからここで投げ出さずに終りまでお読みください!)
 おどろくべきことに、西暦2030年の地球を支配していたのは人類ではなかった。
 西暦2025年大戦争で、ストリクト星人の率いる宇宙十字軍の前に壊滅的敗北を喫した地球人類は、ストリクト星人の支配下となった地球で、細々と生存していた。
 ストリクト星人の支配する西暦2030年の地球に迷走したピルグリム三世は、ストリクト星人の張ったバリアーにふれて大破、かろうじて不時着したが、ZAEMONは瀕死の重傷を負っていて、あやうくストリクト星人に捕えられるところを、たまたま現れたバルタン星人に救けられ、バルタン星に曳航された。
 大破した宇宙船ピルグリム三世から救い出されたZAEMONは、バルタン星人の手厚い看護を受けた上、バルタン星人の手で作られた宇宙船(時空間移動船)を譲られて、付き添ったピピン、パパンふたりのバルタン星人の操縦で、地球への帰還に成功、その贈られた宇宙船に、あらためてピルグリム三世の名を冠して今日に至ったのである・・・
ということなのです。

 山本久美子先生。ここまでお読みになって、恐らく先生は、眉につばをおつけになったに違いありません。もちろんボクにも、ZAEMONの語ったなんだかすごい話が、すべて事実だとは信じられなかったのですが、ここは一応話に乗ってみることにしました。この時点では、まだ、なにか面白そうなゲームやイベントに違いない、と思っていたからです。
 それに、実をいうと夏樹香織先輩が一緒だということが、ボクに勇気を与えたのです。

 「バルタン星人の宇宙船かァ・・それで、なんか、デザインがへんてこりんなんだね」
 「うむ、言いにくいことだが・・つまり・・そういうことなのだ・・」
 「でも、あえて申し上げますと・・逆に・・このピルグリム三世は、地球よりもはるかに先進の科学を持つバルタン星の製品・・ということは、あくまで私見でございますが、旧ピルグリム三世よりもむしろ安全ではないかと・・」
 「・・・・・徳治さん」
 ZAEMONが、軽く抗議します。
 「あ、申し訳ございません艇長、私としたことが、さしでがましく・・・」
 「ふふふふ・・・」
 ZAEMONと徳治さんとのやりとりがおかしかったのか、ここで夏樹香織さんが、声を立てて笑ったのです。ボクは、その時はじめて真っ向から香織さんの顔を見つめました。学校では、先輩ということもあり、なによりも超人気の大スターですから、じろじろ顔を見るわけにはいかなかったからです。
 両頬に大きなえくぼ、大きめで丸い黒目がちの瞳が、くるくると活発に動きます。不思議なことに、その瞳から、ボクが過去にどこかで会ったことがあるような、親しみの湧く雰囲気の視線が送られてくるのです。これが、先輩の人気の秘密なのか・・・
 「ZAEMONのピルグリム三世が、ほんとうに西暦2030年の地球やバルタン星にたどり着いたのかどうか、もし、航海記録のようなものが残されていれば、それを証明できる・・水嶋ハヤト君、そう思うでしょ?」
「え?」
 驚きました。その時僕が漠然と考えていたことが、その通りだったからです。あの瞳で、先回りして考えを読み取られた気がしました。
 「さすが、夏樹香織さん、よくそこに気がつきました・・しかし、大破した旧ピルグリム三世はスクラップにされてしまいました。バルタン星には、残念ながら、航海記録のコア、つまりハードディスクにあたるものは保管する仕来りがありませんでしたので」
 「ふふふ、だがしかし、じつはこのピルグリム三世であれば、あのようなことは、実にたやすく経験できるのだよ、諸君」
 不敵に笑みを浮かべるZAEMONでした。
 「うむ、さっそくわがピルグリム三世の経験したものを再現してお目にかけよう・・・後々のために見ておいてもらった方がいい」
 (後々のため?・・・なんだろう? 後々って・・・)
 ボクはその言葉にちょっと引っかかりましたが、その間に、再現が始まっていたのです。
暖炉の上の枠内にあったマハトマ・ガンジーの標語が消えて、memoria(メモリア) aeterna(エテルナ)という文字が現れています。
 「メモリア エテルナ、永遠の記録として・・・」
 「えっ」
と、おもわず声を出しそうになるほど驚きました。
 たったひとつ上の小学六年生、夏樹香織先輩が、そうつぶやいたからです。


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0