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高畠学 №56 [文化としての「環境日本学」]

鎮守の森との出会い 2

                                             岡一仁志
         
 教育について

 今回の日程のなかで、私が最も感銘を受けたところは二日目に訪問した二井塾小学校での伊澤良治校長のお話だった。
 小学校内給食の自給率五〇%を始めに聞かされたときも驚いたが、それにも増して、このような教育方針を打ち出した校長の熱意と、それに応えた現場の教員の方々の努力が、講演を通じて感じられた。農村地域である当地の特性を生かしてこそ可能な教育実践であるが、小学生の時にこのような経験をさせることによって養われる子供たちの感受性や生きる力など、プラスになることは計り知れない。さらに、年長者(ここでは農業のベテラン、人生の大先輩である高齢の方)と接することにより地域に古くから伝わる仕来りや風習、日本の伝統文化に触れることが出来るということは、大変意義のあることだと思う。
 ちなみに、神社本庁においても、関係団体を通じて自然や伝統文化に触れ合うさまざまな活動を行っている。
 例えば、地域の森を守る運動と青少年健全育成の観点から、神宮御用材の地である長野県木曽郡の赤沢自然休養林内に、森林保全施設を運営し、間伐、植栽、遊歩道整備などの林業体験を通じて、森の多面的機能や自然環境保護育成の理解を深める教室を開設している。また、日本の伝統文化啓発の観点から、日本の伝統精神、文化と切り離すことができない「米作り」を体験して学ぶ「田んぼ学校」を開催している。ここでは稲作体験はもとより、コメの歴史や宗教観などを通し、「日本人とコメ」を再発見する学習を子供を対象に行っている。
 しかし、国の根幹である教育に関して、一宗教法人がどれだけ頑張ってみたところで限界がある。国、または地方自治体が積極的に二井塾小学校のような活動をサポートしてくれることを願うばかりである。校舎の外で見た二、三人の児童がリヤカーにたくさんのネギを積んで畑から帰ってくる姿がとても微笑ましく、私事ながら今夏生まれた私の娘もこのような小学校に入れたいと思った次第である。

 日本の農業の今後、神社との係りについて

 今回の日程のメインである星寛治氏の講演は大変示唆に富むものであった。まきに高島町のみならず、日本の有機農業におけるキーパーソンといえる方だと思う。
 「食」は国家にとって最大の安全保障といわれる中で、我が国の食料自給率の低さは危機的状況であることは今更いうまでもない。「農」に関して全くといってもいいはどの無知である私も、それだけは常々気に掛かっており、今回の講演でそれに対する展望をいくらか聞くことが出来た。
 なるほど高島町においては優れた方々の長年の努力によって有機農業が根付き、初等教育も素晴らしいものがある。しかし、これを高畠町の単なる町興しのひとつにしてしまうだけではなく、高畠の人たちが実践する農業の素晴らしさを全国に伝え広めてゆくことが何よりも大切である。同じことは二井宿小学校での教育についても言えることで、全国から農業を営む人たちや学校関係者が高畠に学びに訪れているようであるが、どのようにすれば全国規模で高畠のような取り組みが広がっていくかは、我々も考えてゆくべき課題ではないかと思う。
 我が国は「豊葦原瑞穂国」というように、まさに稲作によって成り立っている国である。
神道でも、一年を通して行われるコメ作りにおいて時に豊かな実りをもたらし、また、時に災いをもたらす大自然に対する感謝と畏怖の気持が基にあり、豊作を祈り、感謝する「祈年祭」や「新嘗祭」といった祭が最も重要位置を占めている。『古事記』・『目本書記』では、天照大御神が天孫邇邇芸命(ニニギノミコト)に稲穂を託してコメ作りをお命じになったことで、我が国で稲作が始まったとされていることからも、日本人にとって稲作は切っても切り離せない生業のはずである。
 そうでありながら、我が国では市場経済最優先、食文化の変化によって、食料自給率の低下という現在の状況を招来している。かくいう私も神社関係者でありながら、都会育ちでぁるが故に最も大切である稲作を中心とする日本の「農」というものにあまりにも無関心であったと言わざるを得ない。
 星野氏が仰っていたフランスの事例は、今の私たちにとってまさに目標とすべきものであり、今後、我が国は高畠のよぅな農村の復権を全国規模に拡大してゆかなくてはならないと強く感じた。たしかに、現在、我が国が置かれている世界経済体制の中にあっては難しいことだが、食料自給率の問題、その根本にある「農」の問題はもはや看過することはできないだろう。全国規模で日本の原風景を取り戻すことは鎮守の森を再び蘇らせることにも繋がる。そのために自分にできることは何であろうかと、今回の山形の研修で感じた次第である。
              (おかいち・ひとし/神社本庁広報センター広報部)

『高畠学』 藤原書店


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