SSブログ

はてしない気圏の夢をはらみ №23 [文化としての「環境日本学」]

幻視のむら

                              詩人・「地下水」同人  星  寛治

  それはメルヘンの村なのか
  あのむらききの山なみへ
  白い衣をはためかせ
  ゆきの女は去りました

  樹々たちは残雪をはねのけ
  水車はしぶきをあげ
  もえぎの里は一面の菜の花
  赤牛の背に陽炎がもえ
  庭には土をついばむ鶏のむれ

  早乙女のうた声は
  水面をわたる風にのって
  スクール馬車がかけぬけます
  子らの歓声に囲まれて
  爺さんは誇り高い駁者になり

  紅花は梅雨あけの野を染め
  麦秋は蝉しぐれにもえました
  だんだらの丘はぶどう棚
  ルビーの実がひかる日は
  汗にぬれた顔がほころびます

  ぎんぎらの夏は
  川辺に子らの水しぶき
  樹下を吹きぬける風に会い
  螢の川の日暮れには
  茅ぶき屋根の緑に出て
  祭太鼓を聞くのです

  豊穣の秋はいい
  きん色の穂波の中に
  ただ立っているだけで
  ときめきが満ちてきます

  それは季節のおごりのよう
  いいえ地の恵みというべきです
  枝もたわわなりんごや
  打上花火の柿の実を
  子らは木によじのぼり
  小鳥ときそってかじります

  干柿ののれんの下に
  もう漬物も仕込みました
  陽だまりで粟を打ち
  炉端でまゆを紡ぎましょうか
  納屋は薪木で一杯だし
  木枯しの日は納豆を煮よう

  飢えも戦争もない自給のむら
  老いも若きも結び合って
  のびやかに生きている村
  そんなぼくの初夢は
  ふしぎや21世紀のことでした

『はてしない気圏の夢をはらみ』 世羅書房


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0