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気ままにギャラリートーク~平櫛田中 №9 [文芸美術の森]

《内裏びな》

                           小平市平櫛田中彫刻美術館
                                     主査・学芸員 藤井 明

内裏びな.jpg

 

本作は、田中の次女の京子(たかこ)さんが嫁ぐ際に、贈ったとされる田中自作の内裏びなです。
田中には三人の子供がいましたが、長女を18歳、長男を17歳のときに病気で亡くしています。それだけに次女が無事に成長し、嫁ぐことができたことは田中にとって大きな喜びだったに違いありません。近代の彫刻家がこのような作品を手がけることは珍しいので、そのようなところからも田中の気持ちがうかがえます。ふっくらとした面立ちは、どことなく京子さんに似ているので、ひょっとするとこの作品には、田中の眼で捉えられた京子さんの心情が反映されているのかしれません。
 本作は、向かって右が男雛、向かって左が女雛です。現在はその逆が多いので、来館されたご婦人方から並べ方が間違っているのではないかとご指摘を受けますが、本来はこれが正しい並べ方なのです。「天子は南面し、臣下は北面す」という言葉があるように、中国ではむかし君主が臣下に対面する際南を向いて座ったことから、太陽が昇る東が君主から見て左になるため、そちらが上位と考えられるようになりました。それは日本の古い時代の位にも反映されています。むかし歴史の授業で習いませんでしたか。「左大臣」が「右大臣」より位が上であると。
それが何故男女の並び方が逆になってしまったかと言えば、女性の地位が向上した結果によるものではなく、昭和天皇の即位の礼が催された時に、国際儀礼にしたがって天皇が右に、皇后が左に並んだことがはじまりだったという説があります。
生前の田中もまた写真のように、男雛を左に並べていたといい、当館でもそのように並べて展示しています。
 私が勤務する美術館では今月5日から3月17日にかけて、田中が作ったその内裏びなを展示します。庭園の梅が咲き誇る3月上旬(予定)には、内裏びなを展示するケースのガラスに白、赤、ピンクといった可憐な梅の花びらが反射して、幻想的な雰囲気が生まれます。その頃にあわせて、ぜひ当館へお運びください。

* * * * * * * * * * * *                                                                       平櫛田中について 

平櫛田中は、明治5年、現在の岡山県井原市に生まれ、青年期に大阪の人形師・中谷省古のもとで彫刻修業をしたのち、上京して高村光雲の門下生となる。その後、美術界の指導者・岡倉天心や臨済宗の高僧・西山禾山の影響を受け、仏教説話や中国の故事などを題材にした精神性の強い作品を制作した。
大正期には、モデルを使用した塑造の研究に励み、その成果を代表作《転生》《烏有先生》など。昭和初期以降は、彩色の使用を試み、「伝統」と「近代」の間に表現の可能性を求め、昭和33年には国立劇場の《鏡獅子》を20年の歳月をかけて完成した。昭和37年には、彫刻界でのこうした功績が認められ、文化勲章を受章する。
昭和45年、長年住み暮した東京都台東区から小平市に転居し、亡くなるまでの約10年間を過ごした。昭和54年、107歳で没。

冬季展示
会期:平成25年11月13日(水)~平成26年2月2日(日)
田中が門弟たちに宛てた書簡を展示しています。
田中の人柄を偲ばせる貴重な書簡ですので、この機会をぜひお見逃しなく。
※平成26年2月3日(月)は展示替えのため、臨時休館いたします。
2月11日(火)は祝日のため開館し、2月12日(水)を休館いたします。

2014年春季展示
会期:平成26年2月5日(水)~平成26年5月25日(日)
田中が収集した絵画を中心に展示します。
〈出品作家〉
今村紫紅、村上華岳、上村松園など


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