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私の中の一期一会 №58 [雑木林の四季]

            創設9年目でパ・リーグを初制覇した東北楽天イーグルス
~優勝を陰で支えた立花陽三球団社長(42)は外資系証券マンから転身した元ラガーマン~

                           アナウンサー&キャスター  藤田和弘

  27日に行われた楽天対巨人の日本シリーズ第2戦は、先発した楽天のエース田中将大(24)が球界随一の強力打線を誇る巨人を相手に完投で勝利を飾った。初戦を落とした楽天が、もし田中で連敗したら流れは一気に巨人に傾く、絶対“負けられない”状況であった。日本シリーズ初登板の田中にとってもシーズン中とは違うプレッシャーがあったに違いない。だが「田中からは日本シリーズのために特別なことをしようという意気込みのようなものを感じなかった」とあの落合が新聞に書いている。
 私はテレビで田中の「表情」に注意して見ていたのだが、初めから終わりまで「いつも通り」だったように見えた。唯一度6回の2死満塁でロペスを空振り3振に仕留めたときの凄い形相だけは強く印象に残っている。「自分で作ったピンチは自分で抑えないといけないという気持ちでした」と試合後述べていたが、田中将大は、9回を投げ3安打1失点、毎回の12三振を奪う見事なピッチングを披露して「楽天イーグルスの日本シリーズ初勝利」という記録を作ったのは流石であった。
 試合中一度も笑わなかった田中は、ヒーローインタビューでも「完封したかった」と硬い表情で答え、2点リードした直後に伏兵寺内にホームランされ1点与えたミスを悔やんでいるように思えた。
 レギュラーシーズンを24勝0敗という驚異的な成績で終えた楽天の大黒柱は勝つだけでは満足出来なかったに違いない。
 創設9年目で悲願の初優勝を達成した東北楽天ゴールデンイーグルスといえば、シーズン無敗のエース田中将大や鳴り物入りで入団した超大物メジャーリーガーのアンドリュウ・ジョーンズの存在、若手選手までその気にさせた星野仙一監督の手腕などが「表の顔」として思い浮かぶのが普通だろう。しかし陰で尽力した立花陽三球団社長の存在が大きかったことを忘れてはならない。
 西武戦に4対3で勝ってパ・リーグの優勝が決まった9月26日、西武ドームで星野監督、三木谷オーナーに続いて球団社長の立花陽三氏が胴上げされたのを見て、「球団社長の胴上げ」など今迄見たことがあったかな?と思案させられた。
そんな折、「楽天優勝の立役者は42歳の元外資系証券マン」とか「新たな球団経営者、今後もその手腕から目が離せない」といった記事を新聞やネットで見つけ、私は立花陽三という人物をもっと知りたいと思ったのである。
 立花陽三氏は1971年1月生まれで現在まだ42歳と若い。高校時代はラグビーの日本代表候補にも選ばれた実績を持つラガーマンである。
 名門慶応大ラグビー部でもスタンドオフとして試合に出場しながら闘争心を身に付けたと思われる。
 卒業後はソロモンブラザース証券に入社して証券マンの道を歩み出した。以後ゴールドマンサックス、メリルリンチ日本証券と外資系証券会社を渡り歩いた職歴の中で、上田昭夫監督の下で母校慶應大ラグビー部のコーチも務め、99年の全国大学ラグビー選手権で優勝に貢献した経験を持っていることも分った。メリルリンチで執行役員を務めていた昨年8月、楽天グループの三木谷浩史会長に誘われ楽天イーグルスの球団社長に転身したのだが、立花氏の履歴書には「野球」と接した経験は全く書かれていない。
 球団社長就任会見で、日本企業で働くのは初めてだという言葉と共に「星野監督から“ラグビーの闘争心は素晴らしい”という言葉を頂きました。私の闘争心がチームのモメントに表れると思うので、是非使わせていただきたい」と述べ、分野は違っても「勝つことが大事」なのは同じだと匂わせた。
 三木谷オーナーから「球団経営の黒字化」と「優勝」の二文字を求められた立花社長が、まず行ったのは徹底的なチームの分析であった。野球に関して全くの素人だったから、チーム力を数字化する必要があったのである。徹底的にデータを分析する能力は外資系証券で鍛えたと聞いくと、三木谷会長が「この男に」と見込んだ理由が分ったような気がする。
立花社長は「マネーボールではないが、数字的なアプローチのほうが分り易いし、ロジカルだと思う。他球団と比べて、ウチはどこが強いのか,どこが弱いのか。それらを数字的に判断して“じゃあ、ここを強くしよう”とアプローチした」と語っている。
 チームの本拠地仙台に常駐して毎試合球場で観戦しながらチームが勝利する方法を考え続けたそうだが、数字的データばかりに頼るのではなく、選手を「自分の目」で見るコーチ目線も大切だと考えているからであろう。「私の仕事のやり方は他球団の社長とは明らかに違うと思う」の言葉通り異色の社長である。
イーグルスの投手力はそれほど悪くないが、チームの得点が少ない。左打者が多いから左打ちの外国人は要らない。右打ちでホームランを打てる大砲を補強しようと全てシンプルに考えたというのだ。
 立花社長はアトランタに飛んで、434本塁打の超大物メジャーリーガー、アンドリュウ・ジョーンズとの交渉にあたった。冒頭「私は元証券マンだ。君とお茶を飲みに来たのではなくディール(取り引き)しに来た」と切り出したのは、まず熱意や人間性を知りたかったからだという。もしジョーンズが上から目線の態度をとったら断るつもりだった。しかしA・ジョーンズと膝を交え4時間も野球への情熱などを聞くうちにすっかり好感を抱いていた。そして「チームの中心になって、ナインにいろいろアドバイスをして欲しい」と頼んだ。日本に来ることを快諾したジョーンズに「もう一人は誰がいいか」と尋ねるとヤンキースで一緒にプレーしていたケ―シ・マギーを推薦してきた。ホームランも打てる右打者という補強ポイントに合致していたのである。
 「ヨウゾウは英語がとても上手く良いコミュニケーションが取れているよ。ラグビーやビジネスの話を聞いたが、戦略性を持って動ける人だ。今一番考えていることは、チームをどうやって勝たせるかということだ」とはマギーのコメントだが、楽天の選手達に愛されている球団社長だからこそナインに胴上げされたのだということも分かった。
 楽天イーグルスが初めて球界に参入した2005年シーズンは、優勝したソフトバンク・ホークスに51.5ゲームも差をつけられたダントツの最下位であった。2009年に2位になった以外はBクラスばかりだった弱小球団を就任1年目でリーグ優勝を果せるチームに変身させた立花陽三社長の手腕に注目が集まるのは当然だと思う。
 求められた「優勝」は達成出来たが、球団経営の黒字化は、まだ取り組んでいる最中である。
 今季はチームの好成績で観客動員数が昨季に比べ1試合平均7%アップした。チケットを完売した試合も昨季の5試合から、8月までで9回を記録するまでになった。今夜の日本シリーズ第5戦で巨人に勝ち、“日本一”に王手をかければ、仙台に戻る5戦、6戦は超満員になるだろう。田中が控える楽天有利な状況はファンを熱狂させるに違いない。勝つことでチームを魅力的にし、ファンを球場に引きつけようというのが立花社長の描く黒字化へ戦略なのだ。
そして「勝つこと」=「ファン動員」というプロスポーツ永遠の課題への挑戦はこれからも続くのである。
 先日のプロ野球ドラフト会議で、最も注目された桐光学園の松井裕樹投手(17)の交渉権を引き当てたのは東北楽天イーグルスであった。ペナントレースで悲願の優勝を成し遂げた「勝ち運」がそのまま新人選択にも引き継がれたともとれる結果である。当たり籤を引いた立花陽三社長は「何かを持っている」のかも知れない。今後もその手腕から目を離すことは出来ない。
 蛇足だが、25日に公開された第三者委員会の報告書には呆れるばかりだった。統一球を飛びやすくすれば、打ち合いの試合が増え営業面でプラスになるという意見がセ・リーグの社長懇談会で出され「黙って変えちゃうのが一番・・」「漏れない訳がない・・」「言っちゃダメですよ」などのやりとりがあったと今更分っても何の意味もない。予想通り「なぜ隠したのか」は分らずウヤムヤに終わった。
 こっそりボールを飛ぶように変えるのは、ホテルのレストランでメニューと異なる食材が使われていたのに「偽装ではなく、誤表示だ」などと屁理屈をこねるのと同じで、ファンや客を騙すという大罪を犯していることには変わりないのである。


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笠井康宏

藤田さん、こんばんは。今夜の日本シリーズは楽天が4-2で巨人を下して日本一に王手をかけましたね。9回裏、流れが巨人に傾きかけましたが、良く踏ん張りました。楽天を見ていると、藤田さんオススメの「マネーボール」を思い出します。野球人でない方が球団社長に就いた方が「変な先入観」が無くて良いかも知れませんね。違った目線からプロ野球を変えられます。話は変わりますが、あちこちでメニュー偽装が発覚しています。震災後、特に外食は危ないと思っていました。近所のスーパーで価格が暴落している福島県産、茨城産の食材、中国産は間違い無く使われていますよ。調理してしまえば大抵の人はわからないですからね。私が高校1年の時、初めてアルバイトをした北海道に本社がある某パン工場は、床に落ちたパンを平気で鉄板に乗せて焼いていました。私「床に落ちましたけど?」社員「いいから、早く鉄板に乗せて!」「えっ!焼いちゃうの?きたねぇな~」と思いましたよ。そういう風土が染み付いていた為でしょうか、それからすぐに「山崎製パン」になって工場で働いていた人「全員解雇、再雇用はしない」と新聞の埼玉版にデカデカと掲載されていました。裏事情を知ってしまうと食えたもんじゃありませんよ。大人の汚さを見せつけられた気がしました。会長「笠井、食いもの屋なんてそんなもんだよ」未だに忘れられません。
by 笠井康宏 (2013-11-01 00:00) 

笠井康宏

藤田さん、おはようございます。一昨夜、楽天が日本一になりました。球団創立から9年ですから、初優勝まで西武よりも時間が掛かりました。第6戦を田中で落としましたから「こりゃあ、勝てないな」と思いましたが美馬、則本の好投、最後の締め田中のリベンジ登板には痺れました。全員野球で「カネにモノをいわせた」チームを倒しました。藤田さん、楽天の選手、社長、ファンに「あっぱれ」をお願いします。
by 笠井康宏 (2013-11-05 03:08) 

笠井康宏

藤田さん、こんばんは。楽天の土台を築き上げた野村克也さんと星野監督にも「あっぱれ」ですね。追記します。
by 笠井康宏 (2013-11-05 20:14) 

笠井康宏

藤田さん、こんにちは。阪急阪神ホテルズの他に、あの「高島屋」でさえ食品偽装を行っていました。車えびを価格が3分の1のブラックタイガーを使っていました。誤表示でなく明らかに「確信犯」ですよ。「ぼったくり」「詐欺」に該当します。安倍首相の五輪招致で「コントロール出来ている」と世界に大嘘を付いたのに匹敵します。政治、食品、クール便を常温で配達など日本中が「ばれなければ良い」と「嘘だらけ」で良心のカケラも無い奴が多すぎるのが情けなく思います。インチキ中国と同じようなものです。
by 笠井康宏 (2013-11-06 12:57) 

笠井康宏

藤田さん、おはようございます。偽装表示は他にも三越伊勢丹、松坂屋、かんぽの宿…。記者会見でカメラの前で2、3人が頭を下げているのを見ると「またやってるよ」と情けなく思います。日本は世界から信用がされない国になりました。原発事故以来、国際ランクを下げました。いくら競争社会といえ、そんなことは言い訳になりません。日本中「卑しい奴ら」が溢れています。
by 笠井康宏 (2013-11-10 10:42) 

笠井康宏

藤田さん、こんばんは。楽天の日本一に水を差す、星野監督の背番号に因んだ「77%引きセール」が偽装表示で炎上しています。77%引きだと売れば売るだけ赤字になるのは、素人の私が見ても一目瞭然です。最初から、もう少し「無理の無い」価格設定にするべきではなかったかと思います。信用を回復するのは容易ではありません。ややもすると、球団存続の危機まで発展しかねない事件だと私はみています。次々に偽装表示が問題化されている現在、「楽天よ、お前もか。」と裏切られて情けなく思います。
by 笠井康宏 (2013-11-11 21:44) 

笠井康宏

藤田さん、おはようございます。星野監督が歩行が困難な難病にかかりましたが、また元気なお姿でグラウンドに復帰して欲しいと思います。昔はベンチを蹴飛ばしたり、乱闘騒ぎを起こしましたが、間違いなく名監督です。
by 笠井康宏 (2014-06-26 11:00) 

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