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ペダルを踏んで風になる №48 [雑木林の四季]

足短おじさん

     サイクリスト・バイクショップ「マングローブ・バイクス」オーナー  高橋慎治

前回はサドルの位置がどのようになると自転車のペダリングにおいて有効かお話ししましたが、それでも上手に体重がペダルに乗る感覚が乏しいという方にペダル周りの補足をお話しましょう。
このところ少し難しい内容が続いていますので、分からなくなってしまったら後戻りして再確認してください。

自転車に乗車すると身体と自転車の接点はサドル、ハンドル、ペダルの三か所になりますが、サドルの位置とペダルを踏む足の位置は非常に密接な関係を持っていることはご理解いただいたと思います。
実は前回の内容では脚の関節の位置や向き、足裏のペダルの軸を捉える位置をお話ししましたが、肝心な皆さんの身体の違いについてお話を付け加えなければなりません。
ここでいう身体の違いとは体重差ではなく身長差についてです。
身長の高い方と低い方の差は当然四肢である脚の長さにも違いがあります。
脚の長さは自転車のペダリングにおいてテコの長さになりますので優れた競技者であるなら脚は長いに越したことはないですが、日本人においては欧米人に比べて身長における脚の長さの割合は少々分が悪いですね。
でも、自転車の乗車には、ご自身の脚のテコ以外にもう一つテコがあります。
そうです、ペダルが取り付けてあるクランクが脚の長い欧米人に一泡食わす材料になるのです。

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皆さんはこのクランクの長さについてどのくらい興味をお持ちでしょうか?
一般車ならどんなものでも大概が165㎜のクランク長ですが、スポーツ車では165㎜に加えて170㎜、172.5㎜、175㎜・・・と少し長いクランクで、なおかつ微妙な長さ加減があります。
のんびりと時速20キロ程度でのサイクリングでは何でもいいですが、競技指向的スポーツの方はスピードが正義ですから高効率・低負荷がその内容になります。
例えば、身長が180㎝と160㎝の自転車競技者がいたとします。
両者は共にクランクの長さで170㎜のクランクを使用します。
はたして170㎜のクランクの両者の使用感は如何なものでしょうか?
少し前までは、クランクの長さは「身長の1/10」という考え方が大勢でしたが、現代ではどのような傾向があるでしょうか?
それでは、先ほどの凸凹コンビのセッティングの方向を探っていきましょう。
その際、サドルと脚との関係性(クランクが3時の位置のペダルの軸芯からの垂線が膝頭のお皿の裏を通るようなサドルの前後位置)は共通とします。

まず、凸の方ですが、身長180㎝に対して短めのクランク長になりますから、脚の長さにおいてはクランクが回し易くなりますので、回転系のペダリング傾向が想像できます。
足裏とペダル軸との位置関係は、軸が足裏の拇指球から後ろの土踏まずの入り口辺りよりも少し前で、左右の足の開き幅は少し狭めになるでしょう。
サドルの高さは適正高よりも若干低めで、サドルの角度は微妙に前上がりになると思います。
スピードの出せる重いギヤ(ハイレシオ)ではクランク長が身長に対して短めなのとペダル軸に対して浅く置く(後寄り)足の位置のため、立こぎのダッシュの反応性は良好ですがサドルに座ったままでは体重がペダル軸から若干逃げてしまってペダリングにおいては持久的な筋力の動員が多くなる傾向です。

次に凹の方ですが、凸とは反対に身長160㎝に対して170㎜は長いクランク長になりますから、脚の長さにおいてはクランクが回し難くなりますので、トルク型のペダリング傾向が想像できます。
そのため、スムーズなペダリングの足裏とペダル軸との位置関係は、足裏の拇指球から後ろの土踏まずの入り口辺りよりもさらに後で、左右の足の開き幅は少し広めのややガニ股になる傾向です。
サドルの高さは適正高よりも若干高めで、角度はサドルの鼻先が水平なくらい前下がりになり、前後位置は既定よりもさらに前になる状態です。
そのため、重いギヤ(ハイレシオ)ではクランク長が身長に対して長めなのと、ペダル軸に対して深い(前寄り)足の位置のため体重がペダルに乗り易く、ペダリングにおいては筋速度を高める筋力の動員が多くなる傾向ですが積極的にハイレシオが使えるセッティングともいえる方向です。

脚質や戦法等の身体能力が同様で、身長において180㎝と160㎝の身長差が20㎝もあれば「出力:体重(パワーウェイトレシオ)」の観点から180㎝は重く160㎝は軽いことになります。
競技に限らず自転車に乗ることは、自転車と自身の合計重量を加速させる運動になります。
ですから180㎝の常用する172.5㎜や175㎜、177.5㎜のクランク長からもたらされるハイレシオと同等なスピードを得るためには、160㎝では170㎜や172.5㎜、場合によっては175㎜も使えるセッティングが必要になります。
160㎝が長いクランクを使える状況を獲得出来れば高効率を低負荷で獲得出来ることになり、負荷を高めればさらに高い効率(スピード)が得られることになります。
そのためには身体の筋力における筋速度を向上させる必要があります。
160㎝が使うクランク長は基本的には165㎜で、股関節や膝関節の可動域に余裕のあるテコの長さになるからです。
その状態からクランク長を170㎜、172.5㎜と長くしていくためには股関節や膝関節の可動域の余裕分を充てることになるのです。
例えば、クランク長165㎜と170㎜の両方で低負荷のギヤレシオで毎分100回転のペダリングをしたとします。
ペダルに足を置く位置が一緒ならば当然165㎜の方が楽で170㎜の方が苦しいです。
それは長い170㎜クランクの方が165㎜クランクよりも円運動が大きいため速く筋肉を動かさないとならないからです。
さらに関節の可動域も広がりますから余計に運動量が増えるので苦しく感じます。
その170㎜が165㎜と同様にクルクル回るセッティングがあれば高効率を低負荷で獲得できますよね?
こんなふうにお話すると「そんな楽ができるの!?」って思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、実際は仕事率の方向から見ても基本的に両者はイーブンなので高効率を獲得するために凹のセッティングを習得することなのです。

競輪界には昔から「回転は力」という言葉がありまして、裏返せば「力は回転」になります。
これは50X14Tのギヤがクルクル回せるようになると50X16Tなんかは同じ走行速度で脚がグルグル回るということなんです。
やはりスポーツとしての自転車は楽をして強くはならないので筋力強化の練習は不可欠なのですが、ここで「結局は筋力強化なの?」って思われた方は、その前に長いクランクが使えるセッティングを試してみてください。
先ほどの凸凹コンビの例えでお話した凹のセッティングで皆さんでも実践していただけます。
30分くらいなら使っていなかった筋肉でパフォーマンスの向上を実感できるでしょう
そして、その後に身体的・機材的な課題も実感されるでしょう。
特別な練習なしでも30分ほどならナンチャッテドーピングが可能ですよ。
それくらい自転車と身体の接点にかかわる調整は大切なのです。

腰周りと足周りが一応済みましたから次回はいよいよ腕周り、ハンドルのお話を始めましょう。
くどくどしたお話にお付き合い頂きまして、毎度ありがとうございます。


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