軍隊と住民 №45 [雑木林の四季]
3 第一次訴訟の提起
弁護士 榎本信行
訴訟団は、裁判費用の節約‥立証の労力軽減のため、団員の中から代表を選んで原告とすることに決め、地域内各地の自治会の中から年齢、居住歴、職業などを勘案して43名(うち、昭島28名、福生12名、立川3名)の原告団を決定して第1次訴訟を提起することになった。同年4月28日朝、訴訟団、弁護団、支援の人たちは東京地方裁判所八王子支部隣の公園に集合して、裁判所まで行進し、訴状を提出した。
29日付の読売新聞多摩都民版は、提訴の時の様子をつぎのように報じている。
この目午前10時前、東京地裁八王子支部の前に集まった横田基地公害訴訟団の住民たちの表情は緊脹しながらも、一様に明るかった。晶の差引いた母親や、お年寄りのグループの姿も見られる。
「バスを仕立てるのがもったいないので、みんなで国電に乗ってきました。これから、まだお金がかかりますから…。」「原告団は、この日は半数の22人が来ただけです。息の長い裁判ですから、まあ、そうリキまなくてもいいでしょう」…。長い法廷闘争への始まりに、気負いはない。笑顔の余裕さえ見える。
手に手に、飛行機の形を切り抜いたボール紙のプラカードに「爆音は去れ」「安心して眠れる夜を」と書いて掲げられているのが、要求の切実さを伝えていた。
訴状の請求の趣旨は、つぎのとおりである。
請求の趣旨
一、被告はアメリカ合衆国軍隊をして、毎日午後九時から翌日午前七時までの間、
(一)在日米軍横田飛行場を一切の航空機の発着に使用させてはならず、かつ
(二)同飛行場から原告らの居住地に、エンジンテスト音、航空機誘導音などによる55ホン以上の騒音を到達させ てはならない。
二、被告は原告らに対し、それぞれ金25万円ならびにこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。
三、被告は原告らに対し、本訴状送達の日の翌日から
(一)一の航空機の発着および騒音がなくなるまで、ならびに
(二)その夜の時間帯において、右飛行場の使用により原告らの居住地に60ホンを超える一切の航空機騒音が到達しなくなるまで毎月金23000円を当該月末日限り、およびこれに対する当該月の翌日1日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。
四、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに仮執行宣言を求める。
第一項がいわゆる差止請求、第二項が過去の損害賠償(慰謝料)請求、第三項が将来の損害賠償請求である。第二項の25万円のうち15万円は弁護士費用である。不法行為による損害賠償請求の場合、相手方に弁護士費用を請求できるという判例によっている。
訴訟の基本的な法構造は、先に触れたように人格権・環境権の侵害による差止、損害賠償請求であり、民特法に依拠するものであった。
横田基地公害訴訟はこの後、77年11月に第2次212名、原告団長遠山陽一)、82年7月に第3次(905名、原告団長角谷信行)と、3次にわたって提訴される。
『軍隊と住民』日本評論社
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