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軍隊と住民 №44 [雑木林の四季]

訴訟団の結成2

                                      弁護士  榎本信行 

 こうした意見や質問は、もちろん説明会に来てくれた人たちのものであり、初めから説明会に来てくれない人たちも沢山いたことはいうまでもない。しかし、無関心層は別として、初めから参加しない理由は、この説明会参加者の質問などでおおかた予想できた。基地に勤めている人、公務員などで国に対する裁判はどうもという人、基地関係者相手に商売をやっている人、国や大企業相手の運動につきものの、アカのやっていることだと決めつける攻撃に乗ってしまっている人などである。
 しかし、爆音がひどいという受け止め方には、異論はなかったのである。
 こんな議論の中で、訴訟団への参加希望者は対象世帯4700のうち、目標300を上回り、計356世帯に達した。うち昭島が232世帯、福生が112世帯、立川が9世帯、その他が3世帯である。先に述べたようなさまざまな思惑の中で、弁護士や裁判所など一生縁がなかったという人たち、しかも互いに初対面の人たちが、350世帯も集まったことは、爆音被害に対する切実さを物語っている。
 この後、「爆音なくす会」の代表は、昭島、福生、立川の各市を訪れ、訴訟へ協力してくれるよう申し入れた。
 新藤元義昭島市長(保守系)は、後に市議会で物心両面の支援を表明し、老人の多い訴訟団員が八王子や霞ヶ関の裁判所に行くための送迎バスを提供してくれたりした。他の市もおおむね好意的であったが、「防衛庁から交付金をもらっているので、表立って支援できない」と心苦しそうに本音を語る市もあった。
 こうした経過の後、76年2月15日「横田基地公害訴訟団結成総会」が開かれ、訴訟団は正式に結成された。訴訟団規約第二条は、団の目的をつぎのようにうたっている。

   1 横田基地公害訴訟の遂行
   2 横田基地公害被害地域の生活環境の改善
   3 横田基地周辺被害地域における住民運動の発展・高揚

 また第四条は、団員の資格について、「訴訟団員及び原告団員は、過去または現在において、横田基地周辺に居住して、基地公害の被害を受けた住民をもって組織する」としている。思想、信条を問わず、過去の居住者も団員資格ありとしたのである。
 団長には、「爆音なくす会」会長・福本龍蔵さん(公務員)がおされ、以下副団長・枝川栄次(自営業)、事務局長・大野芳一(会社員)、会計・岡部利勝(自営業)、会計監査・隅琢磨(定年退職者)、吉岡芳治(会社員)という顔ぶれであった。
 なお、福生支部長は福井弥助氏であり、同氏は後に転居した枝川氏に代わって副団長になる。
 集会の様子を毎日新聞(2月16日付)は、つぎのように報じている。

 米軍横田基地を発着するジェット機の騒音にたまりかねた東京・昭島など周辺住民は、国を相手取って米軍機の夜間飛行禁止と、生活被害への慰謝料を求める訴訟を3月末に起こすことになり、15日、昭島市の昭和会館で訴訟団の結成総会を開いた。空港騒音公害に対する訴訟は、大阪空港、石川県の小松市の航空自衛隊小松基地に続くものだが、米軍基地については初めて。…
 横田基地で、米軍機が毎日約40機発着、夜間でも絶え間なくエンジンテストなどが行われ、周辺の昭島、福生、立川各市の住民の中には高血圧や不眠症の患者が続出しているというもの。
 この日の総会には爆音により高血圧になったという昭島市松原町1の9の5、金子フサさん(66)ら100人が出席。団長に選ばれた同市拝島町407の2、福本龍蔵さん(56)が「この裁判は横田基地周辺の住民だけでなく、全国の米軍基地周辺の人たちのために絶対勝たなければならぬ。長い闘いになるだろうが、団結を固めがんばろう」とあいさつ、大阪空港訴訟団の上田精吾団長(67)もかけつけ連帯を誓いあった。また、14日には、米軍基地問題にくわしい日本弁護士連合会沖縄問題特別委員長の森川金寿弁護士(62)を団長に公害裁判ではかってない100人という大規模の弁護団の結成を終え、「日本内の米軍施設に不備があり、それが原因で他人に損害を与えた場合、国がその損害を賠償する」という安保条約地位協定の実施にともなう民事特例法二条をタテにして、争うことにしている。

 会場の昭和会館は爆音直下でありときどき大型ジェット機が上空を飛び、会場の窓をどリビリいわせる中で熱っぽい質疑が交わされた。
  なお、文中にあるように弁護団は前日の2月14日結成され、団員310名、団長森川金寿、副団長江尻平八郎(東京弁護士会会長)、同高橋修、事務局長岩崎修、主任大田薙也、同榎本信行の各弁護士という陣営であった(なお、後に江尻平八郎弁護士は日本弁護士連合会会長となったが、その後死去、盛岡輝道弁護士が副団長となる。事務局長は、島林樹、榎本信行、成瀬聡、関島康雄、中杉喜代司と交替して現在に至る)。

『軍隊と住民』日本評論社


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