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私の中の一期一会 №33 [雑木林の四季]

    “鉄人”金本知憲が今季限りで引退を決意~怪我をして、この3年は惨めだった~

                          アナウンサー&キャスター  藤田和弘

 日本プロ野球界のスーパースター阪神タイガースの金本知憲(44)が9月12日、記者会見して「今季限りでユニフォームを脱ぎ、引退する決意をいたしました」と述べ、グラウンドを去る思いを語った。
 心境を聞かれて「ホットした一面がかなりあるが、悔いも、寂しい気持ちもある」と胸の内を明かした。そして「タイガースで2度も優勝出来たのが良い思い出。タイガースの歴史の中で一番強くて、一番人気のある時にプレーさせて貰った。タイガースに来てから幸せな野球人生だった」と笑顔も見せた。
 しかし、決意を母親に伝えた時「これからは身体のケアをして・・」と言われたといって目を潤ませる場面もあった。ファンに対しても「落ちぶれてからはバッシングも多かったけど、こんな成績でも一生懸命励ましてもらった」と嗚咽を堪えるように感謝の気持ちを述べていたのも印象に残っている。
 金本の一番の特徴は怪我に強いことだろう。「痛い」なんて絶対に言わない男だった。骨折などしたら休むのが普通だが金本は休まなかったのである。死球を受けて左手首を骨折してもスタメン出場、右手一本でヒットを打ったシーンは余りにも有名である。休まず試合に出続けて記録したフルイニング連続出場1492試合というのは前人未到の大記録だ。メジャーリーグの鉄人と言われた、ボルティモア・オリオールズの遊撃手カル・リプケン・ジュニアでさえ、フルイニング出場は903試合だから金本の記録が如何に並はずれたものかが分かる。
 その金本も1991年にドラフト4位で広島カープに入団した頃はキャシャな身体つきだったと聞いても俄には信じられない。「鉄人」の肉体は、新人時代からトレーナ-との二人三脚で作り上げたものだったという記事を毎日新聞の夕刊で見つけたので目を通した。
 広島市のトレーニングジム「アスリート」の代表平岡洋二さんは92年のシーズン前、カープの沖縄キャンプに招かれ初めて金本に出会ったという。そしてキャンプを打ち上げた後に訪ねてきた金本から「ベテランは30代後半になると振れなくなって辞めていく。ああなりとうない」と言われたことを鮮明に覚えているそうだ。もう一つ印象深い思い出は、2軍の試合でホームランを打った金本が「お前はホームランを打つ選手じゃない」と首脳陣に言われたとぼやいたことだった。それなら「いつかホームランを期待される肉体に変えてみせる」と強く思って、金本のトレーニングを担当する決心をしたというのだ。
 平岡さんの指導の特徴は、筋力の維持が目的である。だからオフやキャンプの期間だけでなくシーズン中も続ける点にある。金本が新人の頃の野球界は本格的なウェート・トレーニングを重視する空気が薄かった。だから「シーズン中もトレーニングする選手となると、金本はパイオニアの一人でしょう」と平岡さんは言うのだ。背筋、腕、足腰をどう強化するかを二人は試行錯誤しながらトレーニング方法を作り上げていった。どれも単純できついトレーニングだったが、金本は21年間も黙々と続けてきた。入団時の金本は180センチ、体重78.4キロ、太もも(右)の太さは58センチだったものが、10年後の01年には体重91キロ、太ももは65.8センチになって、「ホームランを期待される選手」になっていた。試合後の金本が一人残って黙々とバットを振るシーンは何度もテレビで見たことがある。新人の頃、「バットが振れなくなって辞めるのは嫌だ。自分はそうなりたくない」と思った気持ちを30代後半になっても続けている姿だった。平岡さんは「彼は酒も飲めば、羽目も外すが、時に楽しく、全く無理なく自然体でトレーニングに取り組んできた。100人を超えるプロ野球選手を指導してきたが、彼は「超」がつく特別な存在だった」と振り返っている。今ではレンジャースのダルビッシュ有など多くの選手がこのトレーニング方法を取り入れているそうだ。
 金本知憲は「記録男」でもある。よく知られているのは1492試合連続フルイニング出場だが、初代鉄人の衣笠祥雄(元広島)の最多連続試合出場2215試合に次ぐ1766試合連続出場は歴代2位で、3位松井秀喜が1250試合だから約500試合も差が開いている。通算本塁打474本(13日現在)は田淵幸一と並んで10位タイ、通算安打数が2532本(13日現在)は歴代7位と全て立派なもの。大卒で400本塁打と2000本安打に到達しているのは長嶋茂雄、山本浩二、金本知憲、小久保裕紀の4人しかいない。
 これら輝かしい記録については「感慨は全くない」というのは意外だった。その代わり最も誇りに思う記録は「1002打席連続無併殺」だと答えている。「内野安打になれば打率は上がるけど、併殺打は打率が下がる。でも全力で走れば打率は下がるがゲッツ-にはならない。このことは後輩によく話している」と胸を張って力説した。何時も全力で野球に取り組む金本らしい言葉だと思う。
 「野球は人生そのもの。7~8割はしんどくて、残りの2~3割が喜びや充実感になる。ずっとその2~3割を追い続けてきた」と言うのを聞くと、「努力」ばかりではなく人一倍強い「気力」がなければ成し得ないことだと考えさせられた。エリートではなく、たたき上げで頂点を目指してきた金本の野球人生は右肩棘上筋(きょくじょうきん)断裂と言うアクシデントによって壮絶なものへと変わっていったのだ。
 2010年のオープン戦で試合前の練習中に若手とぶつかって怪我をした。これが重傷だったのである。調べてみると、棘上筋はボールを投げる瞬間に働く筋肉だとある。その筋肉が切れてしまっては、ボールを投げることが出来ない。野球選手にとっては選手生命に関わる大怪我だったのだ。
 右投げ左打ちの金本にとって右肩の痛みはバッティングにも支障をきたした。怪我に強いというキャッチフレーズが定着していただけに苦しかったに違いない。だから「特にこの3年間は惨めというか、みっともなくて、自分で言うのもおかしいが可哀想だった。こんな苦しい人生あるのかなという3年間だった」という言葉は本心以外の何ものでもないと思う。その苦しみからも間もなく解放される。本当にホット出来る日は近いのだ。
 阪神へ引っ張った楽天の星野監督が「いろいろな選手と一緒にやったが、ナンバーワンだった。いい思いをさせてもらった」と言うように、金本が阪神で2度の優勝に貢献し、阪神を変えたことは間違いない。
 私は阪神タイガースが、これから功労者金本知憲をどのように遇するかに実は注目しているのである。何故なら、3年前に怪我をした時チームがもう少し長い目で金本の故障と向き合っていたら、まだ来年も金本は阪神ベンチにいたのではないかと思っているからである。「この3年間は惨めだった」と言われて阪神はどう思っているのだろうか。辞めたくない金本を引退に追い込んだのは今のタイガースだとも言えると思う。
 メジャーリーグでは少しでも怪我があると申告しなければペナルティを科せられると聞く。怪我人は試合に出さないのである。当時は真弓政権下だったが、あのヘボ監督は重症の金本を四番で起用してシーズンインしたのだ。連続フルイニング出場を1400試合に乗せている金本を追い越す選手など当分出てこないのに、「記録は切れるが、十分治療に専念してから戻れ」と言わなかった。試合に出れば打たなければならない、投げなければならない。思うようにならない金本は苦しんで当然じゃないか。惨めと思うに決まっている。怪我に強い男のプライドは「休ませて・・」なんて言える訳がない。打てない、守れないではファンが納得しないのも当然だろう。真弓は大記録が途切れた後も下位打線で使った。治療に専念させていないのだ。何てお粗末な監督だろうと腹立たしかった。落合だったら違っただろうとも思った。棘上筋断裂は全治が無理なら「引退せよ、晩節を汚すな」と言うしかないのに、それも言わない。金本を苦しめるばかりだった。思い切ってレギュラーから外し、終始ベンチに置いて代打で使う、相手投手と相性がいい時、調子が良ければスタメンもありでいいではないか。要するに実績のあるベテランの晩年は上手く使うことが必要なのに、万全でない彼をずっと主力で使い続けた結果、金本は惨めになるしかなかった。今季、和田になって変わるかなと思ったら前政権の政策を引き継いでしまった。結果金本は思うように機能しないばかりかチームはバラバラに壊れてしまった。目先の事態に拘って大局を考えなかった阪神タイガースは暗黒時代の再来になってしまったのである。自業自得としか言いようがない。
 もし落合が監督ならどうだったろうといったような「もし」も「たら」も「れば」は言うだけ空しい。
  金本の決意には「潮時だよ、ご苦労さま、ゆっくり休めよ」と言いたい。


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笠井康宏

藤田さん、こんばんは。金本はまだまだ現役を続けると私は思っていました。辞めなければならない圧力が、球団から掛かったのでしょうね。年俸が高いのが一番ネックになったと思います。それでもアニキと慕われていますから近い将来、良い監督になると思います。
by 笠井康宏 (2012-09-15 21:42) 

笠井康宏

藤田さん、こんばんは。真弓さんは現役を引退してから確か、朝日放送の解説をずっとされていて、長い間、現場を離れていきなり監督の仕事はきつかったのではないでしょうか。コーチで勉強してから監督になった方が良かったと思います。同様でも、日本ハムの栗山監督は選手とコミュニケーションを取るのが上手そうですが、真弓さんは下手に見えます。真弓さんは選手としては素晴らしいバッターでした。名選手だった故に、人の気持ちが読めないのだと私は推測します。「名選手名監督にあらず」にピッタリ嵌まってしまった監督でしたね。
by 笠井康宏 (2012-09-17 21:30) 

笠井康宏

藤田さん、こんばんは。金本の引退試合が明日のDenA戦で、4番レフトを予定しています。私は城島の肩を持つつもりは無いのですが、どう考えても差別扱いだと思います。阪神球団のフロントに城島に対する、人間の温かさが無い気がします。現場とフロントが一体化しなくては優勝は程遠いと思います。
by 笠井康宏 (2012-10-08 18:04) 

笠井康宏

藤田さん、こんにちは。やはり真弓、和田監督は金本に気を遣いすぎたようです。守れなくてレフトに打たせない投球をせざるを得ない投手陣、金本のカバーに回るセンターの鳥谷に負担が大きかったそうです。金本が引退して、他の選手が伸び伸び野球が出来るとあちこちに書いてありました。清原が西武から巨人に移籍した時にも、同じ様な記事を読んだ気がします。チームの風通しが悪かったという事ですね。ある程度の年齢になったら、身を引く覚悟が必要ですね。「KY」と言われてしまいますね。
by 笠井康宏 (2012-10-17 14:36) 

笠井康宏

藤田さん、こんばんは。金本が架空の投資話で詐欺に合って金を騙し取られましたね。年俸が5億円の時らしいです。私は何時も「うまい話は無い」と思います。金本は「更に儲けてやろう」と考えたのかも知れません。騙す方が悪いですが、騙される方も悪いですね。今の世知辛い世の中、油断も隙もありませんね。
by 笠井康宏 (2013-04-07 22:13) 

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