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私の中の一期一会 №21 [雑木林の四季]

    ニッポンは“女子力”が凄い!~野口みずきの“諦めない”に思うもの~

                         アナウンサー&キャスター  藤田和弘

 11日に行われた名古屋ウィメンズマラソンでアテネ五輪の金メダリスト野口みずきは6位に終わり、ゴールと同時に顔をゆがめ涙をこぼした。TV中継を見ていた私は胸が詰まって危うく貰い泣きしそうになった。このレースでは、誰が五輪代表になるかよりも「野口みずきは本当に走れるのか」に私の関心があった。野口みずきというと、2004年8月のアテネ五輪で走った時の印象が強いからである。
 あの時の女子マラソンは気温30度を超える「酷暑の中で」行われた。150センチと小柄な野口みずきは快調に飛ばし、レースが後半に入った25キロ付近でロングスパートを仕掛けた。優勝候補で世界記録保持者のポーラ・ラドクリフ(イギリス)やキャサリン・ヌデレバ(ケニア)といった強豪たちも暑さを考えたのかついて行かず、野口の独走になった。ゴールの競技場に入った時はすぐ後ろにヌデレバが迫っていたが12秒差で野口が逃げ切って金メダルを獲得したのである。あの真夏の過酷なレースを制した“強靭な精神力”は凄いと思った。本命ポーラ・ラドクリフでさえ途中棄権したほどの過酷なコンディションだったのである。
 翌年2005年のベルリンマラソンでも2時間19分12秒の日本記録とアジア最高記録をマークして優勝を飾り、金メダルの実力が本物であることを世界に証明した逸材中の逸材なのである。しかしその後は左足の故障に苦しみ、しつこい怪我との闘いになって長い年月が流れていった。
 今年1月末の大阪国際女子マラソンを欠場すると決まったとき「大阪に向けて調整してきたが直前に足を痛めてしまいショックだ。少し休めば良くなる程度の症状なので名古屋に向けて頑張る。私は諦めません」と記者会見で語っていたが、私はこの「少し休めば良くなる程度・・」に“不安”が隠れているように感じていた。不安があるからこそ「大丈夫だ」と自分自身に言って聞かせているように私には聞こえた。
 だから、野口みずきが名古屋ウィメンズマラソンに出ると決まったとき「途中棄権するのでは・・」という不安がこみ上げてきて困った。理由は勿論「怪我」を抱えているからである。アスリートの怪我は我々の怪我とは全く違う。特に長距離ランナーが足を故障したら選手生命に関わる大怪我と言っていいだろう。多くのランナーが完治まで待っていられず、練習しながら怪我と折り合いをつけようとするのではないかと想像するが、野口みずきもこの4年半は焦りやモチベーションの維持の難しさで苦しんできたに違いない。
 しかし野口は完走して6位入賞を成し遂げた。レース後「ホントは走り切れるか不安で・・」とやはり諦めかけた思いを語った。同時に「諦めない、諦めないと思って走っていたら足が動くようになった」とも言っている。15キロぐらいで左膝がおかしくなったようだが、諦めない気持ちのせいか足が動き出し30キロ手前あたりで先頭に追いつく健闘もあった。でも大きなブランクは非情で勝負をさせてくれない。力を使い果たしての6位に終わった。
 眼鏡をかけていたが必死の形相で走っているのが映像から確認出来た。「こんな私の走りでも、諦めない姿を見てもらえれば」と会見で声を震わせた野口みずき。私は彼女の走りから充分感動を貰った一人である。
 翌12日に発表されたロンドン五輪マラソン代表メンバーに野口みずきの名前はなかった。「諦めないで進んでいけばもっとやれるのではないか、引退レースではない。満足したら終わってしまう」と諦めないを強調した野口みずきは次のステージへの再スタートを切る決心をしている。まず怪我を完治させ、復活を目指して頑張って欲しい。 
 マラソンばかりでなく今や日本のスポーツ界は「女性の頑張り」が目立っているように思えてならない。ポルトガルで行われた女子サッカーの国際親善大会アルガルべ杯で「なでしこジャパン」は惜しくも準優勝に終わったが、日本の主将宮間あやが最優秀選手に選ばれるなど収穫の多い大会だったと言われている。
 世界ランク1位のアメリカを破り、2位のドイツと互角に渡りあった。特に決勝を戦ったドイツ戦では前半0-2から2度追いつく粘りをみせた。ロスタイムに決勝点を許して優勝は成らなかったが、大黒柱の沢を欠いても相手に見劣りしない「強さ」があったと思う。先制されても慌てず追いつく粘り、失敗を恐れず度胸よく放つシュート、決勝戦のロスタイムで乱れた以外は良く守った守備力などが優れ、日本は女子サッカー強豪国になった。「なでしこジャパン」の頼もしさは、全員が言う「諦めない」にあるのは言うまでもない。

 女子バレーボール日本代表が今、アメリカ、ブラジルに次いで世界ランキング3位にいるのを知っている人は何人いるだろうか。当然ロンドンオリンピックでのメダル獲得に期待がかけられている訳だが、スポーツ情報誌「Number」を読んでいて真鍋政義という監督の存在が大きいことを知った。
 真鍋監督の口癖は「日本は他の国と同じことをしていては絶対に勝てない」である。世界と比べて10センチ平均身長で劣る日本が、スパイクやブロックで世界一になるのは不可能に近い。しかし守備なら世界一になれると考えた。バレーボールはゴールである床にボールを落とさなければ点数が入らない競技だ。そこでスパイク・レシーブなど守備力が大事になると考えることに至った。日本代表の合宿では、常に試合以上の負担をかけるため男子を相手に練習するという。そんな話を聞くと我々の世代は東京オリンピックの「東洋の魔女」を鍛えた鬼の大松博文さんを連想してしまう。しかし、真鍋監督は「女子バレー、イコール、カリスマ指導者を連想するだろうが、僕にはそんな人間力はない。自分一人で世界一に慣れると思っていないから、優秀なコーチ陣やトレーナーを選んで一緒にやっている」と笑いがなら言っているそうだ。
 激しい練習を課しているとは思うが、アナログ世代の我々には想像できない方法が採用されていて驚いた。選手とスタッフに一人一台ipadが支給されていて、映像ソフトやあらゆるデータを共有できる。スケジュール管理もマネージャーがカレンダーに入力するだけで全員が確認できるし、一斉連絡もできる。「これさえあればバレーをする上で必要な情報には全てアクセスできる」というのだ。大松さんが存命だったらどう思うだろうかと思ったりした。
 真鍋監督にはメダルを取るためには「団結力が最も大事」だという信念がる。それが次の言葉に繋がってくると思うのだ。「女子が団結した時は10の力が20にも、30にも、40にもなることもある。その変わり人間関係にひずみが生じると、10の力が1や0になったりする。波が大きくてシケになることもあります」と男子とは違った団結力があることをと認めている。
 実力国の中で、国内リーグがプロリーグでないのは日本だけだそうだ。一部はプロ宣言しているが多くがアマチュアである。真鍋監督曰く「ネットを挟んで、プロとアマチュアが試合をする訳です。そこでどうやって世界のプロ集団に勝つのかといえば、愛国心とまではいかないが、やはり日本代表のプライドや日の丸の重みでしょう。最後の最後にものをいうのは人間力や団結力だと思います」
 こうした女性たちの頑張りを見たり聞いたりしていると「女子力」いう言葉が浮かんでくるのだ。諦めないを持続する「粘る力」、失敗を恐れぬ「決断力」、我慢し耐え続ける「持久力」・・こういった力が国際舞台では、往々にして男子を上回る成果を生んでいるのである。
 1970年生まれの医師、江夏亜希子さんは、子供のころ女性が出来るスポーツは限られていたと新聞に書いている。柔道をやりたかったのに女の子だからダメと言われた経験があるそうだ。                                しかし時代は大きく変化した。ロンドンを目指して練習に励む女子重量あげ選手がいるのにはビックリした。東京オリンピックの年、若手だった私は重量挙げの取材に行かされた。重量あげなど見たこともなかったがスポーツニュース用に実況しなければならない。つまらない競技だろうと思ったら大違いで面白い競技だった。何が面白いかというとバーベルに手を掛けるまでの精神統一が選手それぞれに個性があって面白いのだ。動物園の熊のようにバーベルを前に行ったり来たり落ち着かない選手、一点を睨んで動かない選手、「ア~ッ」とか「ウ~ッ」とか奇声を発してバーベルを睨む選手、筋肉隆々の選手たちが一発勝負に賭ける様がとても面白かった記憶がある。                           しかし選手は全部男性であった。常人では思いもしない重さのバーベルを持ち上げる重量あげに、女子選手がいるとは想像出来なかった。女の細腕なんて表現してきた世代の私は頭が混乱するばかりだが、アテネ、北京の日本代表になった三宅宏美という重量挙げ女性選手がすでにいたことを遅まきながら知った次第である。そこへ金沢学院大の女子学生八木かなえ(19)が登場、三宅宏美一人の状況が変わりつつある時代になっている。力持ちの八木かなえはとても可愛い女の子なのが何とも不思議に思える。
 他にも、日本ラグビー協会が女子セブンズの部(7人制のラグビー)の新設を決めたというニュースがある。激しい肉弾戦を展開するラグビーを女の子がする時代に変わって来たのだ。スキーのジャンプは恐怖との闘いに思えるが、中学3年の高梨沙羅が日本代表として国際大会で活躍しているし、高校2年生の伊藤有希も世界選手権で銅メダルを獲得するなど素晴らしい結果を残している。女性ボクサーだって話題になる訳でスポーツに性別は最早関係ない時代になってきた。
 男子顔負けの「ニッポンの女子力」がロンドンで旋風を巻き起こしたら面白いではないか。


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笠井康宏

藤田さん、おはようございます。南海キャンディーズの山崎静代が1RでRSC負けをしましたね。二足の草鞋は厳しいのは私も経験しました。色々厳しい書き込みされてました。オリンピックに向けて、是非とも盛り返してもらいたいものです。
by 笠井康宏 (2012-03-30 09:15) 

chinokigi

笠井さん
私は山崎静代なんて見たことありません。馬鹿なマスコミが取り上げるのは、ボクサーとしてではなくタレントとしてでしょう。
私は女性が激しいスポーツに進出することは評価しますが、ボクシングだけは女性向きでないと思います。
女が殴り合うなんていいものじゃありません。いい気持ちがしませんよ。どうしてオリンピックの正式種目になったのか理解に苦しみます。
せめてプロレスまでですよ。現状は「女の殴り合い」という見世物をニタニタしながら男が楽しむ感じがしてとても嫌です。ちっとも美しくない。
黄金のバンタム、エデル・ジョフレの美しさに魅せられた私は、ボクシングを見世物に使って欲しくないのです。   藤田

by chinokigi (2012-04-01 21:17) 

笠井康宏

藤田さん、コメント有難うございます。確かに女の殴り合いは気持ちの良いものじゃありません。ジムに女の子が入門して来た時も、抵抗感がありました。何処のジムも経営が厳しいみたいで、入門させているのが現状です。毎日のように、ニュースで取り上げているので、私は麻痺をしてたみたいです。
by 笠井康宏 (2012-04-02 15:10) 

笠井康宏

藤田さん、こんばんは。確かに女の子がボクシングをやるのは美しく無いですね。私には5歳の娘と3歳の息子がおりますが、娘にボクシングをやらせるのは反対です。エデル・ジョフレは無茶苦茶強かったそうですね。そういえば、対戦相手の青木さんが12、3年前にジムに訪ねて来ました。失礼ですが、オーラを全く感じませんでした。それでもフライ級3羽ガラスの中で、前評判はピカ一だったそうですね。
by 笠井康宏 (2012-04-04 02:12) 

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