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図書館の可能性№5 [アーカイブ]

 図書館の充実・改善を通した可能性の実現

                           昭和女子大学教授     大串夏身

(1)社会の期待に応える
「現在の図書館に対する人びとと社会の期待に応えることを通して図書館の(可能性)を高める」
 いま、日本で図書館に対する期待が高まっているのは、新しい技術を活用したサービス、特にインターネットを活用したサービス、課題解決型サービスの創造、読書の推進、読書環境の整備などである。ここでは、読書の推進、読書環境の整備を取り上げて考えてみよう。
 読書の推進、読書環境の整備に関する図書館への期待は、2001年(平成13年)12月に法律第154号として公布された「子どもの読書活動の推進に関する法律」とそれにかかわる計画、2005年(平成17年)7月に法律第91号として公布された「文字・活字文化振興法」とそれにかかわる議員連盟の動きなどに示されている。 


「子どもの読書活動の推進に関する法律」は、第2条の「基本理念」 に示されているように「子ども(おおむね18歳以下の者をいう。以下同じ。) の読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものであることにかんがみ、すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう、槙極的にそのための環境の整備が推進されなければならない」という考えに基づき策定されたものである。この法律は、法の趣旨を実現するために、第8条で「子ども読書活動推進基本計画」を国がまず策定し、これに基づき都道府県と市町村がそれぞれに基本計画を策定し、その計画を実現するよう努力することを求めている。また衆議院文部科学委員会で付帯決議が行われ、その第3項で「子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において、本と親しみ、本を楽しむことができる環境づくりのため、学校図書館、公共図書館等の整備充実に努めること」と図書館の整備・充実について言及があった。


 基本計画のなかで、学校図書館、公共図書館をそれぞれに充実することが示されたのは言うまでもない。国の計画の場合、公共図書館での子どもの読書活動の推進、図書館の設置促進、学校図書館の蔵書の充実、司書教諭の配置の促進など図書館にかかわる項目が示され、計画内容が書き込まれている。学校図書館の蔵書の充実について、国は学校図書館図書整備5力年計画を作り、平成14年度からの5年間、地方交付税を活用して毎年130億円、総額約650億円の財政措置を行ってきた。しかし、これは十分活用されているとは言えず、平成19年度からは増額して5年間で総循2千億円を措置することになっている。
「文字・活字文化振興法」では、よりはっきりとした形で図書館の充実がうたわれている。
 第7条には、次のように書かれている。

 第7粂 市町村は、図書館奉仕に対する住民の需要に適切に対応できるようにするため、必要な数の公立図書館を設置し、及び適切に配置するよう努めるものとする。
 2 国及び地方公共団体は、公立図書館が住民に対して適切な図書館奉仕を提供することがで きるよう、司書の充実等の人的体制の整備、図書館資料の充実、情報化の推進等の物的条件の 整備その他の公立図書館の運営の改善及び向上のために必要な施策を講ずるものとする。

 学校図書館については、第8粂第2項で「国及び地方公共団体は、学校教育における言語力の涵養に資する環境の整備充実を図るため、司書教諭及び学校図書館に関する業務を担当するその他の職員の充実等の人的体制の整備、学校図書館の図書館資料の充実及び情報化の推進等の物的条件の整備等に関し必要な施策を講ずるものとする」と人材の面での充実も示している。
 また、「文字・活字文化振興法」を提案した超党派の国会議員でつくる活字文化議員連盟は、「文字・活字文化振興法に基づき、政治・行政・民間は連携して、次の施策を推進する」として、次のような「文字・活字文化振興法の施行に伴う施策の展開」を発表している。

 文字・活字文化振興法の施行に伴う施策の展開

 1、地域における文字・活字文化の振興
 ○ブックスタートの普及による子育て支援
 ○本の読み語り支援、読書アドバイザーの育成
 ○移動図書館の普及・拡充
 ○作文アドバイザー(著述業、作家等)のネットワーク化による作文活動の奨励
 ○読書・絵本のまちづくり活動の支援、小規模書店の個性化・ブックフェア等の支援
 ○教育機関の図書館の地域開放等支援
 ○未設置市町村における公共図書館の計画的な設置
 ○公立図書館設置基準の改革(自治体単位から人口比への改善)
 ○公立図書館図書の学術・研究等専門書の整備・充実
 ○公立図書館への専門的な職員・読書アドバイザーの配置の推進
2、学校教育に関する施策
 ○読書指導の充実、読書の時間の確保による「言葉力」の教育支援
 ○教員養成課程への「図書館科」(仮称)または「読書科」(仮称)などの導入による教員の資質の向上
 ○学校図書館図書標準の達成、学校図書館図書整備費の交付税措置の充実・予算化
 ○小規模校(十二学級未満)への司書教諭の配置、学校図書館に関する業務を担当する職員配置の推進
 ○司書教諭の担当授業の軽減・専任化などの推進
 ○高校図書館の充実
 ○盲・ろう・養護学校の読書環境の整備
 ○新聞を使った教育活動の充実
 ○読み書き活動の基盤である国語教育の充実・より豊かな日本語の教育支援
 ○学校図書館支援センターによる学校間、公立図書館との連携・推進
 ○IT化の推進による学校図書館・公立図書館と国際子ども図書館等のネットワーク化の推進

3、出版活動への支援
 ○文字・活字にかかわる著作物再販制度の維持
 ○学術的価値を有する著作物の振興・普及
 ○著作者及び出版者の権利保護の充実
 ○翻訳機会の少ない国々の著作物の翻訳、日本語著作物の翻訳の振興・支援、それに必要な翻訳者の養成
 ○世界各地で開催されるブックフェア等国際文化交流の支援

 以上のように、読書の環境を整備し読書を推進するために、図書館に対して期待が集まっている。これに応えるために図書館が積極的な活動を展開することが、日本社会での図書館の可能性を高めることにつながる。
 このように地域社会や国民の期待に応えていくことは、図書館に対する認知度を高め、図書館の必要性に対する理解を促進し、図書館に対する支持を広げる点できわめて有効で、支持が広がり、理解が深まれば、図書館が提案するサービスに対して予算や人がより多く配分され、図書館活動がそれだけ活発になる結果をもたらす。
 図書館に対する期待を、読書の推進を例に考えてみた。このほか、インターネットを活用した図書館サービスの新しい展開や課題解決型サービスの創造なども、国民、住民の期待するところである。『図書館の可能性』青弓社


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