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生と死をみつめて№3 [アーカイブ]

福祉とは何か、実践に導く好著       

                                                           ジャーナリスト・清泉女子大学講師  錦織文良
                                                                           藤原瑠美著「ニルスの国の高齢者ケア―エーデル改革から15年後のスウェーデン」
 
 スウェーデンの福祉運営は、国の津々浦々まで制度の趣旨と国民の意思が徹底している。それが強みで世界のモデルになった。日本の、わが町の参考にしようと、議員さんや行政の見学が引きも切らずだが、参考にした割にはめざましい改善の実例に乏しい。老人と医療の膨張に手をつけかねたまま、非効率で悲観的な見通しの弥縫策を繰り返すばかりである。
 藤原瑠美さんの「ニルスの国の高齢者ケア―エ-デル改革から15年後のスウェーデン」は、現地で定点取材を徹底した力作リポートである。そして、にっちもさっちも行かない日本の医療・介護の実態に、福祉先進国の仕組みを照射した提言、警告の書でもある。
 著者はかつて会社勤めをしながら、老母を11年間、91歳で看取るまで在宅介護を貫いた経験を持つ。その体験を受けて、2001年10月に立ち上げた「ホスピタリティ☆プラネット」は、病院の機械・検査を駆使した医療漬け介護から、自宅での安らかな死を迎える態勢に転換する方策を模索し提言し続けている。とはいっても、その実現となると容易ではない。これまでの政治・行政のミスリードと、それを刷り込まれた国民のほぐしがたい感情があって、見通しはおぼろである。なにしろ、昭和30年代中頃の在宅死85%、病院でのベッド死13%が、いまはそのまま逆転しているのだ。
 藤原さんは、銀座のデパートの婦人用品部長や支店長など華やかなキャリアウーマンは経験したが、大学教授やお役所や有名文化人などとは無縁の、権威なき一介の市民である。「亡き母の介護でお世話になった社会に還元したい」というのが運動を始めた動機だった。
 このテーマの類似書は山ほどあるが、この本はさまざまな実践を積み重ねて編み上げた貴重なリポートであり、指針の書である。聞きかじりや理屈ばかりのふやけた頭に、事実の説得力が伝わってくるのである。                  


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